移民運動インターナショナルによる「移民宣言」試訳(ブラッシュアップ版_250709)

昨今、一部で排外主義的な流れが高まっていることもあり、それへのカウンターという意味合いを込めて、タニア・ブルゲラがイニシエーターとして関わっていた「移民運動インターナショナル」による「移民宣言」の拙訳を今回新たにブラッシュアップしたうえで改めてシェアいたします。この宣言は、移民運動インターナショナルが2011年11月に開催した会議「21世紀の移民を再概念化する Re-Conceptualizing the 21st Century (Im)Migrant」の成果として作成され、2012年には、サンパピエ運動が始まったパリのサンベルナール教会でも朗読されました。一応日本語訳も公開されているのですが、少々問題があるため以前拙訳を公開しました。10数年前に執筆された宣言ですが、現在の状況と合わせて読むことで、何かの役に立てば幸いです。

 


http://immigrant-movement.us/wp-content/uploads/2011/12/IM-International-Migrant-Manifesto2.pdf

移民宣言 MIGRANT MANIFESTO

私たちは多くの名前で呼ばれてきた。不法入国者(Illegals)。異邦人(Aliens)。出稼ぎ労働者(Guest Workers)。越境者(Border crossers)。好ましくない人々(Undesirables)。亡命者(Exiles)。犯罪者(Criminals)。非市民(Non-citizens)。テロリスト(Terrorists)。泥棒(Thieves)。外国人(Foreigners)。侵入者(Invaders)。書類のない人々(Undocumented)。

私たちの声は以下の原則に集約される。

  1. 移民たちは国際的つながりの創造に貢献してきたのであり、そうしたつながりのなかに誰もが住っていることを私たちは知っている。ある国に暮らす人の生活の質は移民の労働に依存していることを私たちは理解している。私たちは、自らが変化の原動力の一端を担っていると認識している。
  1. 私たちはみな一つ以上の国とつながっている。多国間で形成される移住という現象は一国のみでは解決できないし、さもなければ移民にとって脆弱な現実が生み出されることとなる。普遍的な権利の実現は必要不可欠だ。誰もが包摂される権利を持っている。
  1. 私たちには、移動する権利、そして移動を強制されない権利がある。自由に移動し、どこであろうと望む場所に拠点を構えることができる企業や国際的エリートと同様の権利を私たちは要求する。私たちはみな、さまざまな機会や前進のチャンスに値する存在だ。私たちはみな今よりも良い生活を送る権利を持つ。
  1. 私たちが敬意を払うのに値する唯一の法は、偏りのない法、すなわちあらゆる人をあらゆる場所で保護する法であると私たちは信じている。排除なし。例外なし。移民の生を犯罪化することを私たちは非難する。
  1. 移民であるからといって特定の社会階級に属したり特定の法的地位を持ったりするわけではないと私たちは主張する。移民であることは探検家であることを意味する。つまり、それは移動を意味し、このことは私たち共通の条件である。連帯は私たちの財産なのである。
  1. 個々の人々が不可侵の権利を持つことが文明の真のバロメーターであると私たちは認めている。私たちは、奴隷制廃止、公民権運動、女性の権利向上、LGBTコミュニティの成果といったさまざまな勝利に共感している。移民の権利を人間の尊厳の追求における次なる勝利とすることは、私たちの急を要する責任であり歴史的責務だ。今日における移民への不当な扱いは、私たちにとって明日の不名誉となることは避けられない。
  1. 移民たちがもたらす人間的価値と知的能力は、移民たちが提供する労働と同じくらい価値の高いものだと私たちは主張する。私たちは、移民が有する文化的・社会的・技術的・政治的知識への敬意を要求する。
  1. 国境の機能は、人道のために再考すべきであると私たちは確信している。
  1. コモンズという概念、あらゆる人がアクセスし享受する権利を持つ場所としての地球という概念を復活させる必要があることを私たちは理解している。
  1. 恐怖が境界をつくり出し、境界が憎しみをつくり出し、憎しみが抑圧者の利益にしかならないことを私たちは目の当たりにしている。移民たちと移民でない人々が互いにつながっていることを私たちは理解している。移民の権利が否定されるとき、市民の権利も危険に晒されているのである。

尊厳に国籍はない。

移民運動インターナショナル

2011年11月

 

著者: (SUGAWARA Shinya)

美術批評・理論。1974年生まれ。コンテンポラリー・アートそしてアートと政治との関係を主な研究分野としている。最近の関心は、アートと移動性について。主な論考に、「質問する」(ART iT)での、田中功起との往復書簡(2016年4月~10月)「タニア・ブルゲラ、あるいは、拡張された参加型アートの概念について」(ART RESEARCH ONLINE)がある。他には、奥村雄樹(『美術手帖』2016年8月号)やハンス・ウルリッヒ・オブリスト(Tokyo Art Beat)へのインタビューがある。最近の論考には、「現代的な、あまりに現代的な——「ユージーン・スタジオ / 寒川裕人 想像の力 Part 1/3」展レビュー」(Tokyo Art Beat)や「同一化と非同一化の交錯——サンティアゴ・シエラの作品をめぐって」(『パンのパン 04下』近刊)。

連絡先:shinyasugawara.critique[at]gmail.com

Shinya Sugawara is an art critic based in Tokyo. His major area of study is contemporary art and the relationship between art and politics. He is currently researching art and migration. He has written exhibition reviews for Bijutsutecho and Tokyo Art Beat, and essays such as “Tania Bruguera, or the Expanded Concept of Participatory Art” (ART RESEARCH ONLINE) and “Intersection of identification and disidentification: Around the works of Santiago Sierra” (Pan no Pan 4 vol.3 forthcoming). He has also interviewed artists and curators like Yuki Okumura(in 2016)and Hans Ulrich Obrist (in 2020) .

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