[test]『エッセンシャル・クリティカル・インフラストラクチャ』展について

2023/1/28-2/13 STUDY: 大阪関西国際芸術祭(会場:THE BOLY OSAKA)

キュレーター:四方幸子

アーティスト:石毛健太、やんツー

2020年以降、新型コロナ感染症は世界を大きく変えた。人々は移動を控えオンラインが活況を呈した反面、物資の移動が飛躍的に増加、エッセンシャルワーカーとともにエッセンシャルなインフラストラクチャである道路や物流システム、倉庫などへの依存が露わになった。美術館や芸術祭でもアーティストの移動が困難となり、作品のみ搬送するケースもあった。

都市や環境における人の移動や資本主義社会とロジスティクスの関係に目を向けてきた石毛健太とやんツーは、近年物流に関わる作品をそれぞれ発表してきた。本展では、その二人が北浜のTHE BOLY OSAKA(以下 :BOLY)という土佐堀川に面したブティックホテル全館で、物流に正面から向き合う。土佐堀川は水都大阪の重要な運河(インフラ)であり、江戸時代から水運が多くの人や物資を運んできた。ホテルは人が移動の途中で滞在する場で、いわば人という物流の停泊地である。

10年間の営業を想定し、築約60年の建物を改装して生まれたBOLYは、オープンまもなくコロナ禍に直撃され、観光客が戻りつつある現在がちょうど折り返し地点にあたる。そのホテルのB1Fから1-6Fへと至る非常階段、そして屋上が「エッセンシャル・クリティカル・インフラストラクチャ」の舞台である。タイトルに沿って、彼らは関東を拠点にする自らと作品が大阪に移動し戻ることを「物流」と見なし、作品の運搬だけでなく、今回の搬送プロセスを記録したドキュメントを披露する。加えて石毛は、ロジスティクスにまつわる平面やマクロな物の動きの中で制作された作品、雑草の繁殖と物流を扱う作品を出展する。やんツーは、「作品に海をみせる」(2022)を含む、同作品の発展形としての平面作品を展示する。

展示の流れは、B1Fのスペース(両作家の作品)、階段部分(両作家の動画+BOLYが常設する作品)、屋上(石毛のインスタレーション)となっている。地下空間から非常階段をめぐった後にたどり着く屋上からの見晴らし―土佐堀川や対岸の大阪の近代建築群など―は、普段視えないインフラから可視的なインフラへと転換する体験となる。それは同時にBOLYという旧い建物の裏と表のインフラ(改装部分)のコントラストを感じ、その境界領域を目撃することでもあるだろう。

本展ではまた「水」の流れやインフラが背後のテーマとなっている。土佐堀の水と同じレベルにあるB1F(実際土佐堀に近接している)では微かに浸み出し、下水管から水音が漏れている。そして屋上からは土佐堀の水面を見下ろすことになる。物流としての作品、人、そして水。下から上へ、表から裏へ、過去から未来へ。「エッセンシャル・クリティカル・インフラストラクチャ」は、様々な物流が交差する大阪、北浜、BOLYの今を寡黙かつ饒舌に切り取っている。

STUDY: 大阪関西国際芸術祭Webサイト・会場掲示用)

 

著者: (SHIKATA Yukiko)

キュレーター/批評家。「対話と創造の森」アーティスティックディレクター。多摩美術大学・東京造形大学客員教授、武蔵野美術大学・情報科学芸術大学院大学(IAMAS)・國學院大学大学院非常勤講師。「情報フロー」というアプローチから諸領域を横断する活動を展開。1990年代よりキヤノン・アートラボ(1990-2001)、森美術館(2002-04)、NTTインターコミュニケーション・センター[ICC](2004-10)と並行し、インディペンデントで先進的な展覧会やプロジェクトを多く実現。近年の仕事に札幌国際芸術祭2014(アソシエイトキュレーター)、茨城県北芸術祭2016(キュレーター)など。2020年の仕事に美術評論家連盟2020シンポジウム(実行委員長)、MMFS2020(ディレクター)、「ForkingPiraGene」(共同キュレーター、C-Lab台北)、2021年にフォーラム「想像力としての<資本>」(企画&モデレーション、京都府)、「EIR(エナジー・イン・ルーラル)」(共同キュレーター、国際芸術センター青森+Liminaria、継続中)、フォーラム「精神としてのエネルギー|石・水・森・人」(企画&モデレーション、一社ダイアローグプレイス)など。国内外の審査員を歴任。共著多数。2021年よりHILLS LIFE(Web)に「Ecosophic Future」を連載中。yukikoshikata.com