「美術評論のこれまでとこれから」中塚宏行

質問1これまでの美術評論でもっとも印象的なものについてお答えください。

80年代以降、日本の美術評論で影響力があったのは、私にとっては、千葉成夫、椹木野衣、北澤憲昭、木下直之、白川昌生、松井みどりといった方々の著作であった。それぞれの立場は異なるものの、いずれも、70年代までの御三家(針生、中原、東野)や、欧米の現代美術評論のパラダイム(理論的枠組み)の見直し、あるいは変更・修正が行われていることであろうか。この他、福住簾の限界芸術論、櫛野展正のアウトサイダー論、藤田直哉の地域アート論などが重要ではないかと考えている。あと、村上隆のスーパーフラット、リトルボーイや奈良美智現象に対して、白川、松井が多少言及している以外に、両者を真正面から論じた有効な批評・言説、議論・論争を、私は寡聞にして知らない。マーケットの市場原理やマスコミ、ジャーナリズムの力、欧米中心の美術思潮を前にして、日本国内の美術批評が本当にどこまで有効で、機能するのかを問われているように思うのはわたしだけであろうか?(敬称略)

 

質問2これからの美術評論はどのようなものになりうるかをお答えください。

先の事はわかりません。

 

 

著者: (NAKATSUKA Hiroyuki)

1954年大阪府生まれ。1977年大阪大学文学部美学科(美術史専攻)卒業。1977年~92年 北海道立美術館(札幌、旭川、函館)の学芸員、学芸課長を経て、1992年~2019 年 大阪府文化課、現代芸術文化センター設立準備室、現代美術センター 学芸班長・主任研究員・研究員などを経て、現在フリー。著作集 「美術/漂流」学芸員N軌跡1~3(2007、2021)、展覧会「描かれた文字/書かれた絵」(1989)、「金光松美」(1998)、「眼と心とかたち」(2015)、「上前日記―上前智祐と具体」編著(2019)ほか