吉本作次(1959∼)は、1980年代に若干二十歳台にしてその抽象表現主義的な作品によって現代美術愛好家の話題を集め一世を風靡した。その後彼は東西の美術史の古典の研究を通して独自の道を模索し2005年の三重県立美術館での個展によってその成果を世に問うた。その結果一部愛好家の熱烈な支持を受けることになり、その探求は年を重ねるごとに深化し今日に至っている。
近代絵画が過去の美術との訣別から出発したのに対して吉本は東西にわたる絵画の歴史を現代に接続させようとしている。一見難解そうに見えるその作品も独自の研究の成果と構想から発展したものに違いない。
彼は自分のことを「総合的フォルマリスト」と呼んでいるが、近代のフォルマリストが減算的、還元主義的であるのに対して、彼は過去の絵画の様々な様式をその作品の中に復活させようとしている。その意味で彼の作品はフォルマリズムであると同時に反近代主義といえるだろう。
私はかつて彼のことを「マニエリスト」と呼び、その作品を自然から出発していないと論じたが(『リア』No.46、2021年)、今回の個展に際して彼にインタビュー(下記)をしたところ彼が日本の自然や聖地に興味を持ちそこから深い影響を受けているということを知った。先の吉本論を修正しなければならないだろうが、彼の日本の自然への愛とフォルマリズムが作品の中でどのように結びつくのか、新たな疑問が湧いてきた。
それはともかくその筆触、描線の妙は絵画の魅力をいかんなく発揮して我々を魅了してやまない。今回は開催中の個展について話をしてもらった。
(参考図版) 「中断された眠りI」 1985
(参考図版) 「サヴォナローラ II」 1985
2023年吉本作次個展について
吉本作次
タイトルを「素色、素描」としたのは、最近絵を見るのに色が邪魔だな、と思うことが増えて、自然界の風景も岩とか、滝とかだと、あまり色を感じないのが原因かもしれないし、世の中に色が溢れていると言うのもあるかもしれないです。
でも、最近の若い人が、結構地味な、ほぼ黒一色、というファッションなのか、もうファッション捨てたわ!と言うことなのか分からないけど、主張しない主張なのかとも思う。
「倣 王蒙 具区林屋図」 2023 145、5cm カンバスに油彩 テンペラ 水彩
かつて、杉浦日向子さんが、京の五色、大阪三彩、江戸の一色 と仰ってましたが、江戸の一色は、凝りに凝った一色で、粋としての黒だっていうことでした。
だから、ちょっとおこがましいですが、水墨にしても、黒楽茶碗にしても、粋を極めると色は減じてゆくものだと思ってるんですね。
「滝行 昼と夜」2022 100x100cm カンバスに油彩 鉛筆
内面の問題で言えば、これからも、日本の自然をメインモチーフとして描いていくとは思うのですが、少し数年前から続いてきた大樹、滝のテーマに一段落ついた気がするというか、南画的空間に惹かれ始めたというか、単品のモチーフで無く、複合的な、視点が導線で動かされていく様な作品に寄せていきたいのかな?過渡期というよりは、次のステージに興味が移り出しているのを感じます。もともと飽き性な僕ですが、大樹と滝はライフワークですから、これからも描くと思います。そして、老境と言える「時分の花」に辿り着ければ、絵画の道行を長く歩く喜びがあるかと、思っておりますし、来年4月の回顧展で、さてさて、これから何を描こうかな?フォッフォッフォッ、、、となるのが理想ですね。
「岩窟(いわや)」2023 145、5x112cm カンバスに油彩 テンペラ 鉛筆
「倣 浦上玉堂先生」2019 53x45、5cm カンバスに油彩 鉛筆
「神話がいっぱい」2023 145、5x 112cm カンバスに油彩 木炭
*「吉本作次展」(仮称)は名古屋市美術館で2024年4月6日~6月9日に開催の予定です