飯山太陽展 横浜が横浜市民ギャラリーで開催していたので、じっくり拝見してきました。栃木県足利市のartspace & caféでの個展や、同じく足利市の「第3回路地まち アート ランブル」でも拝見してきた2000年生まれの若い作家さんです。立て続けに、精力的に、作品を発表しており、頼もしい限りです。
作品を拝見する前、手元にあったチラシの、ご本人による言葉を読みました。
僕は絵を描いたり何かを作ったりする事が大好きです。時間を忘れて、気づいたら短い針が一周していたなんて事もよくあります。
えっ、と思いました。短い針が一周!
つまり、気が付いたら12時間以上が経過していたということになります。ということは、寝食も忘れたように制作に没頭していたということですよね。これは、物凄い集中力ですね。筆者も文章を書いたり、モノづくりは大好きですが、さすがに自分の過去の人生の「気づいたら●時間ランキング」をすべて振り返ったところ、どんなに頑張っても6~7時間程度かな、という結論に至りました。気づいたら12時間以上というのは本当に凄いですね。

「意識の波」(部分)
この集中力を反映したかのように、飯山作品のビッシリ感も半端ないです。本当に、ビッシリ、ギッシリ、ミッチリ、ギッチリ、絵やら文字やらみょうちきりんな漢字やらが「これでもか、これでもか」と詰まっています。
そうですね、この密度の濃さをバイト数で表すとしたら、「キロ」「メガ」「ギガ」どころじゃ絶対に収まらない。「テラ・バイト」でもちょっと怪しい。「ヨタ」「ロナ」「クエタ」くらいデータ容量を大きくしないと彼の作品は入りきらないです。

「卵」
作風は単純明快です。自分の好きなモノ・コトをとにかく画面をすべて埋め尽くすようにミッチリ描くだけです。専門的に美術を学んだことはなく、完全に独学を貫き通してきた飯山さんの作品には、有無を言わさぬほどのパワーがあります。
漫画家・つげ義春(1937年生まれ)、同じく漫画家・佐々木マキ(1946年生まれ)、現代美術家・照沼敦朗(1983年生まれ)の影響を強く受けている感じがしました。(ご本人には確認していませんが…筆者が勝手にそう感じただけです)。また、日本の優れたグラフィックデザインの系譜も体内に流れている雰囲気も濃厚です。ミッチリした感じは、照沼と酷似していますが、飯山さんの作品は、“肌触り”が照沼とかなり異なります。

「不可説不可説転」(部分)
良かれ悪しかれ、ではありますが、飯山作品には、かすかに「自己憐憫の情」が漂っているような気がするのです。自己憐憫を言い換えますと、「ヴァルネラビリティー(vulnerability)」ですね。つまり、傷つきやすさがもたらしてくれる慰藉力(なぐさめ力?)、「弱さと言う力」を駆使しているのです。その“甘さ”が、作品に独特のユーモアや叙情を生み出しているのです。ただ、「自分愛しさ」をいったんエポケーして、もっともっと純粋に制作だけに打ち込めば、作品がより力強くなるような気がしました。

「不可説不可説転」(部分)
まだ、非常にお若い作家さんなので、他者との出会い、交渉によって作品もどんどん変容を遂げる余地がたくさん、それこそ「クエタ・バイト」くらいありそうなので安心です。筆者など、今後の伸びしろはせいぜい「キロ・バイト」程度しか残されていないので、前途多難です。
半世紀以上の歴史を誇る横浜市民ギャラリーの学芸員の方に20代半ばで注目されるというのは、一つの事件です。通常、このギャラリーがフォーカスするのは知名度が高く、ある程度の実績を持った方が多いです。美術の専門教育を受けたことがなく、こんなに若い作家さんをあえて前面に押し出した学芸員の方に「よく催行されましたね!」と賛意の声を送りたいと思います。

「全てはこの瞬間のために。」(部分)
ちなみにですが、飯山さんはユーチューブ上で、映像作品も発表しております。どこか、懐かしい、甘やかな叙情を漂わせた作品が多い中、筆者が最も評価したいのが、「手作り観音炊飯器」です。炊飯器がどんどん知的な進化を遂げていった挙げ句、到達してしまった境地というのが、面白いやら、恐ろしいやら。
本作を見ていただければ、すぐにご同意していただけると思いますが、飯山さんは、現代詩でも素晴らしい作品を書いてくれそうな予感がします。歌詞に登場する言葉が、ちょっと普通は出てこないような発想に基づいており、言葉を素材に制作に励めば、ステキな詩作品がどんどん出てきそうな感じなのです。

「スーパーのお肉様」
それにしても、キラキラしていますね。若い才能というのは。まぶしくて、まぶしくて、目が焼き潰されそうです。人生の折り返し地点をとうの昔に通過し、現在は若い頃の残照だけで生きている筆者は、THE BLUE HEARTSの「ラインを越えて」でも聴いて、自分を鼓舞させることしかできないじゃないですか。
机の前に座り 計画を練るだけで
一歩も動かないで 老いぼれてくのはゴメンだ
そうだ、このまま老いぼれていくのはゴメンだよな、確かに。飯山作品を拝見し、刺激を受けました。「短い針が一周」は無理かもしれませんが、もっと自分を追い込んで、色々とモノづくりをしないとまずいですね。
ところで、横浜市民ギャラリーには無料の送迎車サービスがあり、JR桜木町駅前とギャラリーとを結んでおります。大変、素晴らしいサービスなので、ぜひお使いいただきたいのですが、往復とも使ってしまうのは、あまりお勧めできません。
ギャラリーのすぐ横にある、成田山横浜別院が必見の場所だからです。真言密教の秘法「御護摩」を目の当たりにすることができますし、今にも崩れそうな急傾斜地に接するようにして建っている姿も圧巻のスペクタクルだからです。

マドンナのPV「Jump」にばんばん登場する成田山横浜別院
場所の持つ力が、「ロナ・バイト」くらいあるからでしょうか? 実はこの成田山別院、過去にマドンナのPV「Jump」(2005年)の映像内にもばんばん登場しています。フランス発祥のスポーツ・トレーニングカルチャー「パルクール」のトレーサー(実践者)と思しき外国人男性らが、成田山別院の敷地内をぴょんぴょん飛び跳ねており、ドキドキします。マドンナの名作PVをぜひご覧になった上で、ギャラリーと成田山を訪れれば、ちょっとした小旅行気分が味わえること請け合いです。という訳で、無料バスの利用は片道だけにしてくださいね。(2025年12月1日18時30分脱稿)

