アートとデザインの境界を問い、みんなで考え共有する「デザインに恋したアート♡アートに嫉妬したデザイン」大阪中之島美術館 三木学評

会場風景


大阪中之島美術館 開館1周年記念展「デザインに恋したアート♡アートに嫉妬したデザイン」
会期:2023年4月15日(土)~6月18日(日)
会場:大阪中之島美術館 4階展示室

大阪中之島美術館でユニークな展覧会が開催されている。もう少し早く行って、早くレビューを書こうと思っていたのだが時間がなかった。そうこうしているうちに、来週末で閉幕となるので急いで書いておきたい。

「デザインに恋したアート♡アートに嫉妬したデザイン」と展覧会タイトルも少しキャッチ―で煽り気味ではあるが、基本的には「アートかデザインか」とよくアート業界で話題となるテーマを真正面から問い、さらに観客にも問いかける展覧会といってよいだろう。

この展覧会が実現できるのも、大阪中之島美術館がポスターやプロダクト、机や椅子といったファニチャーなど多くのデザイン作品を収蔵しているからでもある。そして、日本の建築やデザインは世界的な評価も得ており、デザインミュージアムの設立が長らく叫ばれているように、日本のデザインの美学的、歴史的な位置づけは喫緊の課題だろう。

会場風景

約110点に及ぶ出品作品の中で、デザインは、平面では田中一光、亀倉雄策、早川良雄、原弘、杉浦康平、横尾忠則、粟津潔、宇野亞喜良、石岡瑛子、永井一正、佐藤可士和、立体作品では深澤直人、柳宗理、山川譲、剣持勇、倉俣史朗、村野藤吾、吉岡徳仁、喜多俊之、三宅一生などのマスターピースと言える作品が並ぶ。興味深いのは、荒川修作が、1972年のミュンヘン・オリンピックのポスターと同時に、巨大な平面作品《ブランク・アズ・スペース》(1979-81)を出品していたり、草間彌生が初期のペインティング作品《アキュミュレーション》(1960)に加えて、無数の金の突起をつけた椅子《無題(金色の椅子のオブジェ》(1966)やKDDIの携帯電話を出品していたり、横断的な活動をしている作家が見られることだろう。

あるいは、横尾忠則や田名網敬一、日比野克彦もグラフィックデザインからアート作品を制作するようになっており、作品自体が「アートかデザインか」という問うこと以外に、「アーティストかデザイナーか」という問いが重なっている点もよりその境界を曖昧にしている要素だろう。

会場風景 手前:ヤノベケンジ《アトムカー(黒)》(1998) 国立国際美術館蔵、奥:川俣正《ルーズベルト島プロジェクト:Plan22》(1991) 大阪中之島美術館蔵

さらに、出品しているアーティストも豪華だ。草間彌生、荒川修作は言うまでもなく、赤瀬川原平、猪熊弦一郎、高松次郎、中西夏之、三木富雄、元永定正、イサム・ノグチ、森村泰昌、河原温、野村仁、川俣正、杉本博司、会田誠、宮島達男、内藤礼、ヤノベケンジ、藤浩志、小谷元彦、名和晃平、イチハラヒロコ、パラモデルといった、戦後現代美術の各時代の代表的作家が一堂に会している。極めつけは、村上隆と奈良美智だが、彼らの作品は近年高額になり過ぎて、逆説的だが日本の展覧会で見る機会は多くはない。国際的に評価の高い現代アートの作品の展示は、国立国際美術館に加えて、大阪中之島美術館、和歌山県立近代美術館、高松市美術館など、早い時期に作品を収蔵してきた地域の美術館があってこそ成り立つものだ。

これらの作品はアートであることは間違いないが、日本人の特性もあって、コンセプチュアルな作品も非常に洗練した造形と仕上がりになっており、マスプロダクトといってもおかしくない完成度が、よりアートとデザインの境界を曖昧にしているといえる。

作品の前に設置されたデバイス 左端:デザイン、右端:アートとして、スライドボタンを動かして、投票する。

会場では、よりその境界が溶けていくように?、あまり壁をつくらず、広い空間にフラットに並べられている。作品の前には、今回のために特別にパノラマティクスが設計した投票システムが用意されている。右と左に中心のボールがスライドするタッチパネルが置かれており、左端のデザイン100%、右端をアート100%とした上で、観客が考える位置を決定し、投票することができる。

最後の部屋では、それらの投票結果が集計され、1つ1つの作品の位置や、カテゴリの位置がダイナミックに表示されている。それを見ながら、少し違うなと思うことはあるかもしれないが、おおむね納得できる結果になっているのではないか。観客参加型のシステムとしては、非常にシンプルで洗練された形になっており、「問い」自体をテーマにしたキュレーションとして成功しているように思う。

近年、クリティカル・デザインやスペキュラティブ・デザインといった、問題解決型ではなく、問題提起型のデザインが提唱されており、その時点でアートなのではないかと思わないではないが、そこでは不定形のプレゼンテーションではなく、デザインの完成度も問われると思うので、日本のアートと接近しているように思える。

あるいは、もう少し歴史を遡れば、日本の場合、江戸時代までの「匠」の世界から、絵画と彫刻、美術工芸をアカデミー教育として切り離してきたが、戦後の階級差があまりない日本的な環境の中で、すべてが「工芸」の一種である江戸時代的な状況に回帰している可能性もあるだろう。ここに工芸作品が展示されていたら、どういう見え方になったのか気になるところである。

いずれにせよ、この展覧会は、日本のアート&デザインのハイライトを示すものであり、日本のアートやデザインが好きな外国人にも大いに訴求するだろう。実際、私はこの展覧会に2回行き、1回目は多くの学生を見かけたし、2回目は外国のギャラリストをアテンドし、彼は著名な作家のまだ見たことがなかった作品や、知らなかったけど素晴らしいアートワークを見ることができたことに感銘を受け、日本の美学のエッセンスを集約したものとして評価していた。是非、学生や外国人も楽しめる、このような意欲的な展覧会を今後も期待したい。

初出:『eTOKI』2023年6月9日公開。

著者: (MIKI Manabu)

文筆家、編集者、色彩研究、美術評論、ソフトウェアプランナー他。
独自のイメージ研究を基に、現代アート・建築・写真・色彩・音楽などのジャンル、書籍・空間・ソフトウェアなどメディアを横断した著述・編集を行っている。
共編著に『大大阪モダン建築』(2007)『フランスの色景』(2014)、『新・大阪モダン建築』(2019、すべて青幻舎)、『キュラトリアル・ターン』(昭和堂、2020)など。展示・キュレーションに「アーティストの虹-色景」『あいちトリエンナーレ2016』(愛知県美術館、2016)、「ニュー・ファンタスマゴリア」(京都芸術センター、2017)など。ソフトウェア企画に、『Feelimage Analyzer』(ビバコンピュータ株式会社、マイクロソフト・イノベーションアワード2008、IPAソフトウェア・プロダクト・オブ・ザ・イヤー2009受賞)、『PhotoMusic』(クラウド・テン株式会社)、『mupic』(株式会社ディーバ)など。

https://etoki.art/

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