移民運動インターナショナルによる「移民宣言」試訳

キューバ出身のアーティスト、タニア・ブルゲラがイニシエーターとして関わっていた「移民運動インターナショナル「による「移民宣言」の試訳をシェアします(おそらく著作権的にも問題がないと思うので)。ブルゲラ研究の一環として個人的に翻訳していたものです。この宣言は、移民運動インターナショナルが2011年11月に開催した会議「21世紀の移民を再概念化する Re-Conceptualizing the 21st Century (Im)Migrant」の成果として制作され、2012年には、サンパピエ運動が始まったパリのサンベルナール教会でも朗読されました。一応日本語訳も公開されているのですが、少々問題があって…… 10年以上前に執筆された宣言ですが、現在の状況と合わせて読むことで、何かの役に立てば幸いです。


移民宣言 MIGRANT MANIFESTO

試訳:菅原伸也

原文:http://immigrant-movement.us/wp-content/uploads/2011/12/IM-International-Migrant-Manifesto2.pdf

 

私たちは多くの名前で呼ばれてきた。不法入国者Illegals。異邦人Aliens。出稼ぎ労働者Guest Workers。越境者Border crossers。好ましくない人々Undesirables。亡命者Exiles。犯罪者Criminals。非市民Non-citizens。テロリストTerrorists。泥棒Thieves。外国人Foreigners。侵入者Invaders。書類のない人々Undocumented。

私たちの声は次の原則にまとめられる。

1. 国際的な結びつきは、移民がつくり出すのを手助けしてきた現実であり、私たちすべてが居住する場であることを私たちは知っている。ある国のある人の生活の質は移民の労働に依存していることを私たちは理解している。私たちは変化の原動力の一部であると自認している。

2. 私たちはみな、一つ以上の国と結びついている。移住という多国間で形づくられた現象は一国で解決することはできないし、さもなければ移民にとって脆弱な現実を生み出す。普遍的権利を実施することは必要不可欠である。包摂される権利はすべての人に属する。

3. 私たちは、移動する権利と、移動することを強制されない権利を持っている。自由に移動をして選ぶ場所どこにでも身を落ち着けることができる企業と国際的エリートと同じ特権を私たちは要求する。私たちはみな、機会と、進歩するチャンスに値する。私たちはみな、より良い生活に対する権利を持っている。

4. 私たちの敬意に値する唯一の法は、偏りのない法、すなわちすべての人をすべての場所で保護する法であると私たちは信じている。排除なし。例外なし。私たちは、移民の生の犯罪化を非難する。

5. 移民であることは特定の社会階級に属することや特定の法的地位を持つことを意味しないと私たちは主張する。移民であることは探検家であることを意味する。それは移動を意味し、これは私たちの共有する条件である。連帯は私たちの財産である。

6. 譲渡することのできない権利を持った個々の人々は文明の真のバロメーターであると私たちは認めている。私たちは、奴隷制廃止、公民権運動、女性の権利向上、LGBTコミュニティの達成の拡張といった勝利に共鳴している。移民の権利を人間の尊厳の追求における次なる勝利にすることは、私たちの急を要する責任であり歴史的責務である。今日における、移民への不十分な扱いは、我々の明日の不名誉となるだろうことは不可避である。

7. 移民は、提供する労働と同じくらい人間の経験と知的能力の価値をもたらすと私たちは強く主張する。私たちは、移民が駆使する文化的・社会的・技術的・政治的知識に対する敬意を要求する。

8. 国家間の境界の機能は、人道のために再想像されるべきであると私たちは確信している。

9. コモンズという概念、すべての人がアクセスし享受する権利を持つ場所としての地球という概念を復活させる必要を私たちは理解している。

10. いかにして恐怖が境界をつくり出すのか、いかにして境界が憎しみをつくり出すのか、いかにして憎しみが抑圧者に役立つものでしかないのかを私たちは目の当たりにしている。移民と非移民が相互に結びついていることを私たちは理解している。移民の権利が否定されるとき、市民の権利は危険に晒されているのである。

尊厳に国籍はない。

移民運動インターナショナル
2011年11月

著者: (SUGAWARA Shinya)

美術批評・理論。1974年生まれ。コンテンポラリー・アートそしてアートと政治との関係を主な研究分野としている。最近の関心は、アートと移動性について。主な論考に、「質問する」(ART iT)での、田中功起との往復書簡(2016年4月~10月)「タニア・ブルゲラ、あるいは、拡張された参加型アートの概念について」(ART RESEARCH ONLINE)がある。他には、奥村雄樹(『美術手帖』2016年8月号)やハンス・ウルリッヒ・オブリスト(Tokyo Art Beat)へのインタビューがある。最近の論考には、「現代的な、あまりに現代的な——「ユージーン・スタジオ / 寒川裕人 想像の力 Part 1/3」展レビュー」(Tokyo Art Beat)や「同一化と非同一化の交錯——サンティアゴ・シエラの作品をめぐって」(『パンのパン 04下』近刊)。

連絡先:shinyasugawara.critique[at]gmail.com

Shinya Sugawara is an art critic based in Tokyo. His major area of study is contemporary art and the relationship between art and politics. He is currently researching art and migration. He has written exhibition reviews for Bijutsutecho and Tokyo Art Beat, and essays such as “Tania Bruguera, or the Expanded Concept of Participatory Art” (ART RESEARCH ONLINE) and “Intersection of identification and disidentification: Around the works of Santiago Sierra” (Pan no Pan 4 vol.3 forthcoming). He has also interviewed artists and curators like Yuki Okumura(in 2016)and Hans Ulrich Obrist (in 2020) .

https://linktr.ee/shinya_sugawara