「美術評論のこれまでとこれから」鶴岡真弓

質問1これまでの美術評論でもっとも印象的なものについてお答えください。

 

質問2これからの美術評論はどのようなものになりうるかをお答えください。

 前世紀までの人類史を省みて、われわれの21世紀こそは、近代システムの発展史観の亡霊を祓い、必ずや平和へと人類が歩み出すのだと夢見られた。しかしその希望は、その四半世紀を費やした現在において既に、かつての「夜と霧」に戻るような濃い闇に包まれてしまった。
 いま地上では、渾沌とした中世に戻ったかのように、不明な感染症の蔓延と医療制度の混乱と、隣人たるべき人間同士が命を奪う戦禍がつぎつぎと起こり、核の脅威に晒される、日々有事の世界となっている。
 芸術は、医療や諸科学技術のように「救命」への即効性はもたない(と考えられている)が、このような危機の時代にこそ、効能をもたらすのが、批評という叡知と行動であることを、いっそう覚醒させられるだろう。
 美術批評があらゆる意味での分断を超えて、最大の価値を発揮する時がきている。その際、計画倒れの大きな遅延よりも、われわれ一人ひとりが日々刻々の小さな言表と行為によって、大袈裟ではなく足下の「世界」を救命し、再構築できる方法を探求するという、原点にある力を発揮することが求められていることはいうまでもない。