秋田で踊る画家の「日常」を描いた木炭画がVOCA賞@上野の森美術館

VOCA展2024(上野の森美術館、3月30日まで)でVOCA賞を受賞した大東忍(だいとう・しのぶ)さんの《風景の拍子》は、4m近い横幅の画面に木炭のみで描いた作品だ。 木炭はデッサンで使う画材というイメージがある。あえて木炭のみで描いた絵画の魅力はどのように創出されたのか。プレス内覧会で大東さんに話を聞く中で、考えを巡らせてみた。

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大東忍《風景の拍子》 展示風景 東京・上野の森美術館 撮影:筆者

秋田の日常の夜を描いたという。大東さんが日々暮らしている近くの風景だ。ただし、実景のある瞬間を捉えたわけではなく、たくさんのスケッチや写真を組み合わせることでできた風景なのだそうだ。画面の真ん中辺りにすごく小さく描かれている人物は、大東さん本人。一人で踊っている様子が描かれている。大東さんは、祖霊を招いて踊る「盆踊り」を研究し、日々踊り続けているという。トランス状態を経験したこともあるというから、かなり徹底しているのだろう。踊りに没入する大東さんの日常を捉えた風景ともいえる。

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大東忍《風景の拍子》(部分) 展示風景 撮影:筆者 街灯の下で踊っているのは大東さん本人という

描写は極めて細密だ。そして、細密なのは描いた部分だけではない。街灯の光は、塗り残しで表現したという。塗り残すだけでよくこれほどの輝かしさが出てくるものだと思う。塗った部分が細密だからこそ生まれた表現とも言える。

鉛筆で細密画を描く例は以前から多くあるが、木炭だけでここまで細密に描いた例は、ほかにどのくらいあるのだろうか。画面の大きな部分を占める雑草の描き込みには、相当な労力が必要だろう。あるいは、そうした部分の描写にこそ、嬉々として力を割いていたのかもしれない。その結果として、鉛筆による細密画とは明らかに異なる空気感が表れている。

自分の姿をあえて豆粒のように小さく描いたのも、細密画だからこその表現なのだろう。自身が絵の中にいる意味は、大いにある。そのことによって、紛れもない大東さんの「日常」を表していることになるからだ。

ほかに大作が並ぶ中で、一見地味に映るこの作品がVOCA賞を得たのもまた、興味深い事実である。

※本記事は、ラクガキストつあおのアートノートの記事を転載したものです。

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【展覧会情報】
VOCA展2024 現代美術の展望─新しい平面の作家たち─
会場:上野の森美術館
会期:2024年3月14日(木) 〜 3月30日(土) *会期中無休

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プレス内覧会(3月13日、上野の森美術館)で挨拶の言葉を述べている大東忍さん

著者: (OGAWA Atsuo)

1959年北九州市生まれ。東京大学文学部美術史学科卒業。日経BP社の音楽・美術分野の記者、「日経アート」誌編集長、日本経済新聞美術担当記者等を経て、2012年から多摩美術大学芸術学科教授。「芸術と経済」「音楽と美術」などの授業を担当。一般社団法人Music Dialogue理事。
日本経済新聞本紙、NIKKEI Financial、ONTOMO-mag、東洋経済、Tokyo Art Beatなど多くの媒体に記事を執筆。多摩美術大学で発行しているアート誌「Whooops!」の編集長を務めている。これまでの主な執筆記事は「パウル・クレー 色彩と線の交響楽」(日本経済新聞)、「絵になった音楽」(同)、「ヴァイオリンの神秘」(同)、「神坂雪佳の風流」(同)「画鬼、河鍋暁斎」(同)、「藤田嗣治の技法解明 乳白色の美生んだタルク」(同)、「名画に隠されたミステリー!尾形光琳の描いた風神雷神、屏風の裏でも飛んでいた!」(和楽web)など。著書に『美術の経済』(インプレス)