卵と身体で生を確かめる ソー・ソウエンのパフォーマンス@√K Contemporary

美術家ソー・ソウエン(Soh Souen)のパフォーマンスがクールだ。

ソーは普段、身体と壁や樹木などの間に生卵をはさむパフォーマンスを一人で演じている。ただはさむだけではない。あるときには4時間、あるときには10時間はさみ続けているという。「常軌を逸している」との思いが胸の内と外を去来する。一方で、「それは何のためにやっているのか?」とも思う。東京・神楽坂のギャラリー、√K Contemporaryで個展が開かれると知り、確認に出かけた。

9月15日に同ギャラリーで開かれた企画展『Soh Souen「Your Body is the Shoreline」』の内覧会では、ゲストアーティストのサラ・ミリオ(Sara Milio、オランダ出身)と2人で一つの卵をはさんで白壁の展示室の中を動くという、美しいパフォーマンスを見ることができた。

企画展『Soh Souen「Your Body is the Shoreline」』(√K Contemporary)の内覧会より 撮影(本記事の写真すべて):小川敦生

パフォーマンスが始まろうとしていた時、会場に張り詰めた空気を感じたのは確かだ。しかし、ただ緊張感だけが場を占拠していたわけではなかったように思う。どこかに和やかな何かが存在していたのだ。

控えの部屋から現れた2人は、床の上に置かれていた卵にごく自然に向き合い、体を低くして身体を使ってはさみ、お互いの動きを察知しながら、ゆっくりとしなやかに立ち上がり、移動し、座るなどの動作を続けた。基本的には、手は使わない。

数十名の観衆は雑音を立てることを極力控えていたが、時折カメラのシャッター音が聞こえることもあったし、そもそも息の音や衣擦れの音があるから完全に無音にはならない。むしろ、そうした〝 自然〟の中でパフォーマンスが行われていることを、心地よく感じた。

ソーはなぜ卵をパフォーマンスのツールにしているのか。筆者の理解しているところでは、一つは卵が生命の源だから。多くの動物は卵を生む。人間などの哺乳類も卵子を持つ。しかし、鶏の卵は落とすと簡単に割れる、もろい存在でもある。多くの動物はもろい卵を何とかして守り、新たな生命の誕生につなぐ。

観衆は卵が落ちないよう、祈りながらパフォーマンスを見つめる。卵を身体で守るのがいかにすごいことなのか。今度はそんな思いが湧き上がってきた。ソーは卵を身体で感じることで、生というものの存在を確かめているのではないだろうか。そして、落ちて割れないように祈る観衆の存在も重要だ。

卵のパフォーマンスを映した映像作品の展示

ギャラリー地階では、呼吸をテーマにした作品群が展示された。各ディスプレイからは、臍(へそ)が映ったそれぞれの人物の呼吸音が聞こえてくる

ソー・ソウエン/soh souen 1995年福岡県生まれ。2019年京都精華大学芸術学部造形学科洋画コース卒業。現在北九州市を拠点に制作活動を行う。

【展覧会情報】
展覧会名:Soh Souen「Your Body is the Shoreline」
会場:√K Contemporary(東京・神楽坂)
会期:2023年9月16日(土)~ 10月14日(土)
<< パフォーマンス開催日時 >>
9月16日(土) 15時~ 《The Egg》by Sara Milio and Soh Souen
9月22日(金)~ 10月14日(土)15時~19時 《Eggsercise》by Soh Souen
地階 Installation 11時~19時

著者: (OGAWA Atsuo)

1959年北九州市生まれ。東京大学文学部美術史学科卒業。日経BP社の音楽・美術分野の記者、「日経アート」誌編集長、日本経済新聞美術担当記者等を経て、2012年から多摩美術大学芸術学科教授。「芸術と経済」「音楽と美術」などの授業を担当。一般社団法人Music Dialogue理事。
日本経済新聞本紙、NIKKEI Financial、ONTOMO、東洋経済、論座、Tokyo Art Beatなど多くの媒体に記事を執筆。多摩美術大学で発行しているアート誌「Whooops!」の編集長を務めている。これまでの主な執筆記事は「パウル・クレー 色彩と線の交響楽」(日本経済新聞)、「絵になった音楽」(同)、「ヴァイオリンの神秘」(同)、「神坂雪佳の風流」(同)「画鬼、河鍋暁斎」(同)、「藤田嗣治の技法解明 乳白色の美生んだタルク」(同)、「名画に隠されたミステリー!尾形光琳の描いた風神雷神、屏風の裏でも飛んでいた!」(和楽web)など。著書に『美術の経済』(インプレス)