Proof of X – Blockchain As A New Medium For Art
会期:2023年6月17日(土) ~ 6月25日(日)
会場:THE FACE DAIKANYAMA
観客が、この展覧会を訪れた証はNFTとしてブロックチェーンに刻まれる。この展覧会を訪れること自体が、オンチェーンとオフチェーンにまたがっている。ブロックチェーンという、従来のアートに存在しなかった「場」は何を示しているのだろうか。
ブロックチェーンは、分散型経済、暗号通貨、NFT(非代替性トークン)、DAO(分散型自立組織)、スマートコントラクトなどの基盤である。 ブロックチェーン上には、これからもさまざまな利用が生み出されるだろうし、大きな社会構造変化をもたらし、さまざまな目論みを抱いて参加する流れは尽きない。 ブロックチェーンそのものは従来のコミュニケーションのためのメディアではない。非中央集権型で、ネットワーク上に接続されたコンピュータ間で行われる取引の前後を分散型台帳技術に記録し、その情報を同期・管理できる技術である。
ブロックチェーンを使ったアートは、多様な傾向を見せており、従来より活動してきたアーティストたちもNFTを取り入れている。
2021年は、NFT(非代替性トークン)としてのアート作品が、爆発的に注目された。ある種の狂騒で、NFTアート作品が、オークションで驚異的な値段で落札されたし、ニューヨーク近代美術館でも、学芸員の募集にこれらの事情にも詳しいことが条件とされていた。またそのホームページでも、NFTは、芸術作品を含むエンティティの唯一の所有権をデジタル的に証明するために使用することができると解説した。
それではProof of X展への参加者たちは、ブロックチェーンに取り組んで、どのような表現を生み出しているのだろうか。
「Proof of X – Blockchain as A New Medium For Art 」展は、2023年6月17日から25日までに開催された。題名が示すように、ブロックチェーンを固有の技術・メディウムとして捉えたものである。
これに先立つ2022年4月に開催された第一回展は「Proof of X – NFT as New Media Art 」と題していた。
一年満たない間に開催されたこの二回の展覧会のタイトルが示すように、「NFT as New Media Art 」から「Blockchain as A New Medium For Art」へと、つまり「NFTを固有の技術・メディウムとして捉える」から「ブロックチェーン及びスマートコントラクトにフォーカス」へと変わっている。
ブロックチェーンのみを用いて作品が保存された作品はフルオンチェーンと呼ばれる。外部データやユーザーのアクションに連動して作品イメージや属性を変化させることのできる「Dynamic NFT」、「Programmable NFT」は、数多の「NFTアート」とは一線を画している。総じてジェネラティブアートやスマートコントラクトアートと呼ばれる傾向の意義は何であり、それがアートのあり方の今後にどのように影響するのだろうか。
美術批評家のルーシー・リパードとジョン・チャンドラーは、1968年の『アート・インターナショナル』誌2月号で、「美術の非物質化」と題して、オブジェなき「超概念的(ultra conceptual)」な美術の出現、物質的な表現にとって代わる表現を取り上げた。この時期は、ミニマリズムからポスト・ミニマリズム、そしてコンセプチュアルアートの出現にあたり、「いまだに実現をみないインターメディア革命」の渦中であった。Proof of X展に見られるあり方は、その革命を現在に引きついでいると言ってもいいかもしれない。実際に、展示されている作品には、コンセプチュアルアートの傾向が見られる。しかしその相似点を持って語ってしまうのは、文脈の固定につながってしまうだろう。それではメディウムとして考えるとどうだろうか。絵画や彫刻といった美術のメディウムを除いて、近代以降に出現した写真、映画のフィルム、レコード・ディスク、録音・録画に使用される磁気テープ、コンピュータのメモリー、インターネットのサーバーなどを、アーティストたちは表現に使ってきた。ブロックチェーンもその系譜にある。しかし、旧来のものと異なるのは、プロトコルと、さらにそこにスマートコントラクトという自動メカニズムの自律性にあるだろう。
こういうものが、技術として今後どのようにさらに発展していくのか、そしてそれをアーティストたちがどのように利用したり、対象化していくのかが、本展の最大の見どころである。
本展で見られた数々の作品についてはいずれ個別に語る機会を持っていきたい。