2年ぶりの個展となる本展において、大野力はギャラリースペースとShowroomに計4点の木彫を展示。うち3点は玩具の人形がモチーフで、題名はそれぞれ《乳児像》《幼児像》《頭部像》となっている。
ギャラリースペースで最初に目に入るのは、奥へと続く通路の先にある《乳児像》。素材は樹種不明の丸太で、上から1/3ほどの部分を用いて乳児の姿を丸彫りしている。両腕を挙げるポーズ自体もそれなりにミステリアスだが、頭部の正中線に生じた干割れが、この像がまとう奇妙な印象を決定的なものにしている。残る2/3は、像のための台座なのか、像の一部なのかが判別しがたく、或いは、両方の可能性も考えられる。(《幼児像》も同様)。
ところで、「人体を表した彫刻」と「人形」というのは似て非なるもので、それぞれの作り手の間にも、ある種の絶対的な距離感があるように思う。そういう意味では「彫刻を以て人形を表現する(あるいは人形を動機に彫刻を制作する?)」大野の作品は、彫刻としては相当異色で、ゆえに鑑賞者は、両者の差異や関係について意識を向けることになるだろう。
ちなみに、平面作品を制作する作家の仕事において、彫刻や人形をモチーフや被写体とすることはさほど珍しくはない。例えば、蝋人形を被写体とすることでオリジナリティの意味を問う杉本博司の「Portraits」シリーズはそのひとつだ。そして大野の作品においても同種の問題意識を読み取ることは可能だろう。しかし、より注目すべきは彼の場合は人形が「大量生産された既製品(レディメイド)」であることだ。その点ではむしろポップアート、特に漫画を絵画で表現したリキテンスタインの方法論に近い。一方、素材とする個体の特性との関係が密接にならざるを得ない「一木造」という技法の採用は、均質な量産品との対比をより強いものにしている。
本展で唯一、像的ではない《静物》は、「静物画とその額縁を映した映像に、ノイズが入った瞬間」を表現したもの。構造や形状は他の3点とたいぶ異なるものの「人為的に模されたイメージ」がモチーフである点では共通している。作家によれば、この作品におけるノイズは、それが虚像であること認識させるための要素だという。であれば、前述の《乳児像》に生じた干割れもまた、この物体が影像(エイカシア―)であるゆえのノイズといえるのかもしれない。ただしこちらは、作家自身の意図と関係なく素材と環境により生み出されたものだが。
(2023年7月)
[展覧会情報]
RISE GALLERY(東京都目黒区碑文谷4-3-12)
「大野力 個展 『穴と他』」
2023年7月8日-7月28日
[初出]
RISE GALLERY WEBサイト
https://rise-gallery.com