【極夜って、真っ暗じゃないんだ!】
「オーロラ観測記」の後編となる本稿は、トロムソ2日目の極夜鑑賞記からスタートです。
トロムソ郊外の宿で、朝起きたとき、結構明るいので、びっくりしました。一日中、太陽が昇らない極夜のタイミングで宿泊していたので、なんとなく一日中、真っ暗なのかと思っていたのです。午前中、とりわけ早い時間帯は、神秘的な光線に満ち溢れていました。映画や写真の世界で「マジックアワー」という言葉をよく使いますが、皆さんもご存じですよね?

夜のように見えるが、午前10時前のトロムソ。長さ約1キロのトロムソ橋が伸びる
日の出直前と日没直後の数十分程度だけ体験できる薄明の時間帯、それがマジックアワーです。日本で体験できるマジックアワーは暖色系の色彩を帯びていますが、ここは北欧、しかも北極圏です。午前9時30分ごろは、夜闇の黒が薄くなり、何とも言えないブルー系の空で覆われています。その「青」が時間とともに薄れていき、12時頃にはこれもまた何とも言えない色調の透明感漂う白に世界が包まれています。水墨画の世界のような感じとも表現できるかもしれません。薄墨色という言葉が一番近い感じです。このような美しい色合いの空が数時間、継続します。

少しブルーがかかった極夜のトロムソの空。午前11時くらいだと、この程度まで明るくなる
そして、時計の針が進み、正午から午後帯になると、朝早い時間帯のあの神秘的な感じが薄れ、日本の曇りの日をもう少し暗めにしたような時間帯が続きます。最後に来るのは、真っ暗な闇です。太陽が出ないだけで、一日を通してみると、きちんと「朝→昼→夜」の差異はありました。筆者は無知なため、一日中、真っ暗なのが極夜だと思い込んでいたので、結構、日の光を感じられる昼間がしっかりあるのが新鮮でした。
それにしても、朝の早い時間帯の極夜は本当に美しかったです。正直に告白しますと、オーロラよりも極夜の方が気に入ったかもしれません。何しろ、肉眼で見るオーロラ、地味すぎなんですよ。
【オーロラ観測ツアーにも参加】
田舎の宿を後にして、トロムソ中心部の宿に移りました。ここで2泊して、トロムソの市内観光とオーロラ観測ツアーに参加しようという趣向です。市内観光の成果の一部分は、拙稿「北極圏アート」に執筆しましたので、そちらを読んでいただくとして、本稿では、このツアーの結果をお伝えしましょう。
「スカンディック・イシャフスホテル」というトロムソ湾に面したホテルの前に集合したのが午後5時30分。イギリス、オーストリア、ドイツ、アイルランドから来た老若男女+筆者、ガイドさん2人で合計12人が向かったのは、ホテルからミニバスで約60分の場所・リンバソーヤ(Ringvassoya)島でした。建物物が一切なく、人工の光線も見当たらない低高度の山中のような場所です。

満月とオーロラが同時におさまった様子
車を止めた場所から徒歩で雪原の中を歩くこと20分程度。周囲が360度開けた場所で止まり、いよいよ夜空のウオッチングが始まりました。すると、またまた奇跡が起こりました。2日前、トロムソ郊外の宿周辺で見たときと同様、午後7時から20分程度、たっぷりとオーロラが見えたのです。やはり白い煙のようにしか見えませんでしたが、カメラのモニターを向けると、きれいな緑色を発していました。

二重三重になって見えるオーロラも撮影できた
たまたまですが、本日は満月でした。結果、満月とオーロラが一緒に映るという面白い光景が見られました。ツアーに参加した価値はあったわけです。夢中になって色々と写真を撮っているうちに、いつのまにかオーロラは消えていました。

ツアー参加者全員で車座になって、よもやま話を繰り広げる
ツアーの催行会社は、「これですぐにトロムソ中心部に帰ったら、お客様に申し訳ない」と思っているようで、ここから、延々と3時間弱ほどのオーロラ待機タイムが始まりました。薪をくべながら、参加者全員が車座になります。ガイドさんが進行役を務めながら、ここから先はオーロラが再び出現するまで英語を使いながら、皆でトークをするのです。まずは簡単な自己紹介をして、ガイドさんがそれぞれの参加者に適宜、質問を投げかける。するとその答えに対して、他の参加者が質問をしたり、相槌を打ったり。そうやって、ひたすらオーロラを待つのです。
途中、事前に用意してあった大きめのマホービンに入った具だくさんのカレースープやベリーのホットジュース、ジンジャークッキーを食べる時間も設けられました。座っているだけなので、めちゃくちゃ寒い! しかし、人間の欲には限りがない。「さっき見たのよりもっと大きな、派手なオーロラが出現するかも」という一念で、ひたすら耐え続けましたが、とうとうオーロラは現れてくれませんでした。もう、疲労困憊です。身体も冷え切っています。ミニバスに戻ると、参加者の誰もが無言になっていました。
集合場所だったホテルに戻ったのは、午後11時過ぎでした。ちなみにツアーの参加料金は一人約4万円でした。往復で約6時間の小旅行、独力ではなかなか行けないとっておきの観測スポット・リンバソーヤ島まで行けて、ガイドさんの説明も聞けたわけですから決して高いとは言えないと思いますが、とにかく寒いのには閉口しました。

トロムソを走る車のガラスには基本、全面びっしりと厚いつららが覆っている。本当に寒いです
宿のベッドで横になりましたが、身体が寒くて、なかなか寝られません。郊外の宿で見たオーロラ、今晩、リンバソーヤ島で見たオーロラのことを思い返している時に、筆者の頭をよぎった映画作品がありました。20世紀世界文学史上の巨人スタニスワフ・レム(1921~2006年)のSF小説「ソラリス」(1961年初版)を原作に、巨匠アンドレイ・タルコフスキー(1932~1986年)がメガホンをとった名画「惑星ソラリス」(1972年)です。
作品の主人公は俳優さんが演じる登場人物ではありません。筆者は、未知の惑星ソラリスの表面を覆いつくすプラズマ状の“海”こそが真の主人公だと確信しています。この海は、人間の意識の深層にある願望や恐れを実体化・物質化させた上で、宇宙ステーション内にいる乗組員たちの前に出現させるーーという恐ろしい能力を持っているのです。
この映画に登場する海、筆者がノルウェー極北の地で見たオーロラとそっくりだったのです。見る人一人ひとりによって、また、見る時間帯によって、異なる見え方をするのがオーロラなのかもしれません。そして、オーロラを鑑賞した際に引き出される想像・光景も見る者によって多分、全然違うのだと思います。筆者の場合は、「惑星ソラリス」や約138億年前に宇宙が誕生したときの「ビッグバン」を想像してしまったわけですね。
2日間観測して、2回オーロラと遭遇しました。観測できた時間は、合わせて50分にも満たない、本当に短い時間でした。このオーロラと出合った際、ソラリスの海が筆者の前に何を実体化して見せてくれたのか? それは、内緒です。なんでもかんでも書き、記録する癖のある筆者ですが、さすがに恥ずかしすぎて、皆様にはご披露することはできません。
北欧は、独特の清潔感が漂っており、筆者は大好きです。物価が異常に高い、という欠点はありますが…。大体、日本の物価の1・5~2倍はしますね、どんな物でも。この物価の高さにもめげず、また、いつの日か北欧旅行に行こうと思いました。次の旅で、筆者にソラリスの海が何を見せてくれるのか? 今から楽しみで仕方がありません。(2026年1月12日9時36分脱稿)

