拙稿「銭ゲバ国家ニッポン#1」では、ミュージアムの料金は「原則無料」にすべきだ、と訴えました。
このような主張をすると必ず、こういう反論が返ってきます。
- 「国立のミュージアムは独立行政法人に移行した。いわゆる“国営”ではない以上、自力でも収支を健全化させていく必要がある」
- 「過度の国費依存は、政府からの干渉を招き、結果としてミュージアムの自律性を奪うものになる」
私は、そういう詭弁を弄する方にこう言い返したいです。
- 「じゃあ“国立”という名前を館名から外せばいいじゃん」
- 「国から、必要な金も満足に交付してもらえないんだったら、そんなの“国立”の名に値しない」
- 「国費もたっぷり出させた上で、(権力側の)干渉も招かなければ別に館としての自律性は奪われないのでは?」
要するに、文化庁を始めとする政府側、自治体側の志が低すぎると思うのです。
私たちが、どれだけ高額な税金を国や地方自治体に支払っているか、皆さんも毎月、毎年、痛いほど実感されているのではないでしょうか?
あれほど、高額な税金を国民一人ずつから徴収しておいて、ミュージアムに満足な金額を与えないというのは、どういう料簡なのでしょうか?
独立行政法人に移行させたのだって、新自由主義的な考えに毒された官僚どもが、各ミュージアムに自由競争を行わせて、トータルな黒字化を果たそうという、まさに机上の空論をしているだけです。
はっきり言って、日本政府の「儲かる~」政策は常軌を逸しています。大学だってそうですよね。大学関係者の皆さんもうんざりされていることと拝察します。
私学助成、国立大学法人への運営費交付金などはどんどんカットされています。その中で、お国の役に立つ「デュアルユース(軍民両用)」技術の基礎研究などを実施するとお金がもらえるから、大学がどんどん軍事化していっています。
「学の独立」という崇高な理念はどこへやら、助成金をカットされた大学側は「軍事などでお国に協力する研究」「儲けを上げてお国に貢献できる研究」の方向に誘導されてしまっているのです。そして、ベンチャー企業への参入等によって「儲かる大学」を実現させようとしているわけです。
いったん、確認したいのですが、「儲かる大学」なんて全く不要だと思います。政府は、きちんと十分な交付金を各大学に与え、しかも、余計な口出しは一切しないように努力すべきです。学問というのはどのような権力からも独立して存在するべきものです。そして学問の自由が保証されてはじめて、質の高い研究が可能になります。質の高い研究は、結果として国力を高めることに貢献するのです。たとえ、その研究が功利主義的な観点から見て、何も国家に貢献していないように見えたとしても、です。
お国の役に立つ(ように見える)研究ばかりを推し進めるのは、かえって学の世界をやせ細らせ、国力を低める恐れが高いです。政府のあほな官僚の皆様におかれましては、一見、何の役に立つのか分からない、たとえば人文系の学問の意義も十分、認めていただきたいと思います。
そもそも、大学もミュージアムも「儲かる」ことを求められているという現状がまったくもっておかしいのですよ。なんでもかんでも自由競争の中にぶち込んで利潤追求をしていこうとするのは、いかにも浅薄な世界観です。学術研究や文化芸術の育成・発信は単純な金儲けだけの視点では捉えきれない部分がたくさんあるのです。
ディストピア的な見方かもしれませんが、そのうち「儲かる図書館」「儲かる警察」「儲かる消防」「儲かる役場」といったくだらないことを政府が言い出しそうで、冷や冷やします。いや、もうすでにその萌芽はあるように思えます。
公共サービスを支えるために私たちは高すぎる税金を納めているのに、その税金が米軍(=アメリカ)のために、じゃぶじゃぶと使われ、結果として美術館、博物館、図書館、大学といった極めて重要な存在への支出が年々カットされていることへの怒りを忘れてはならないと思います。
補助金を交付されたら館の独立が損なわれる、なんていう詭弁は笑止千万です。政府はミュージアムに十分なお金を支出する責務があるのですから。それは日本国憲法や博物館法を読めば、自然に引き出される結論なのですから。たっぷり補助金を払い、ミュージアムをきちんと無償化して、しかも、館の独立を妨げるような口出しは一切しないでほしいです。分かりましたか、あほな官僚の皆さん。
美術館における静粛さについても、ペン使用の可否についても、いつもいつも同じ論理展開で本当に申し訳ないのですが、しょっちゅう海外視察を個人的にしている私は、多くの先進諸国のミュージアムが「入場料金無料」なのに驚かされています。あれだけ立派で充実したコレクションを誇る美術館が、どうして無料にできるのでしょうか?
しかも、海外からのツーリスト(つまり、私のこと)も無料というミュージアムが多く、びっくりします。お気持ちだけ寄付してくださいと訴えるミュージアムもあるにはありますが、それにしても原則無料の施設が多くて、「いったい全体、どこから運営費を賄うのか」といつも思います。膨大な寄付金もあるでしょうが、やはり第一はその国の政府による支出が大きいでしょう。つまり、国が本気を出せば、無償化は可能なのです。
日本政府は無償化の方向についての施策を進める気がまったくないのです。日本国憲法や博物館法を無視して、儲かるミュージアムを作ろうという方向に懸命に誘導しているわけです。志の低さにはがっかりさせられます。
原則無料のミュージアムの何がいいかと言うと、いつでも、気軽に足を運べる安心感が心を豊かにしてくれる点です。美術品や遺跡からの出土品や様々な貴重な文化資源にいつでも触れられるというのは、生涯学習の観点からも大いに評価できるでしょう。ところが、入場料がたとえ100円、200円だったとしても有料の場合は、とたんに敷居が高くなります。
しかも有料の施設はご時世の推移によって、どんどん値上げしていきます。そして一度値上げしたら、二度と値下げはしません。どんどん値上げの方向に傾いていきます。そこに「儲かる~」といったくだらない思想が政府から押し付けられると、さらなる値上げを検討せざるを得なくなります。値上げをすればするほど、お客さん(=一般市民)の足はミュージアムから遠のきます。このような悪循環を防ぐには、最初から入場料無料で館を運営するためにどうすればそれが可能か、という視点を政府、地方自治体が持たないといけないのです。
市民からはお金を徴収しないで、どうやって館が健全運営できるのか、懸命に考えなければいけません、政府も地方自治体も政治家も。国民から多くの税金を預かっている「公僕」の当然の責務だと確信しています。美術館、博物館、図書館といった公益性の強い空間に「儲かる~」を安易に持ち込もうとするのは勘弁してほしいです。「儲かる~」はよそでやってくださいな。しょせん、いくら儲けようとしたって、ミュージアムの儲けなんてたかが知れていますよ。
まぁ、そんなことは政府の皆さんも分かってはいると思います。結局、金で脅し、金で縛ることによって、自由な言論の場を狭めるというのが真の目的なのではないでしょうか? ミュージアムの職員は、例えば学芸員なら研究者としての側面も持っているわけです。その研究者としての学芸員の中からお国を批判するような者を一人たりとも出したくはないのでしょう。つまり、ミュージアムの研究的な部分への弾圧をしたいのでしょうね、政府は。
政府を褒めたたえ、政府をよいしょするような研究にだけ、お金が出され、政府を批判する研究に携わった学芸員はとっとと首にしてしまいたいーーそんな政府側の本音が「儲かる~」政策の裏側に透けて見えます。ただ、先ほども申し上げた通り、政府を褒めたたえる研究ばかりを称揚していては、国力は下がります。結果として政府が損するのです。様々な考え方の研究を容認し、補助金も出すーーそれが真の「学の独立」だと思います。
いくら、「儲かる」主義を主張する政府でも、多分、小中学校の公教育だけは、この主義を言い出そうとはしないでしょう。なぜか? 公教育は、言い方は悪いですが、国家に忠義を尽くす人間を育成するための洗脳装置にほかならないからです。
- 自分一人の欲望だけで動く人間は最低です。
- 常にお友達(=他者)の視点から自らの行動を律せよ!
- チーム一丸となって協力する喜びを小さな時から味わおう。
- 目上の者を敬おう。
- 自分が生まれた、この国に誇りを持ちましょう。
そんなメッセージが小学校1年生の時から、中学卒業のまでに徹底的にたたき込まれます。まさに洗脳そのものです。このような洗脳行為の担い手には誰もなりたくない。だから教員志望者はどんどん減りますし、比較的、自由な校風の私立学校に優秀な生徒たちは逃げていってしまいます。
おっといけない、話が公教育批判にそれましたね。ただ、学校の教員も、日の丸で起立、国家斉唱しないと処分される時代です。多くの良心的な、真の意味で日本とそこに生きる子供を愛している教員の方々が己の信念を貫いて、処分されています。このように学校で起きている事態が、ミュージアムにもどんどん迫ってきていると考えた方がよろしいかと思います。
まとめます。私の考えでは、ミュージアムに対する「儲けろ」化の真の狙いは、ミュージアムの研究機関的側面への弾圧だと思います。まともな研究をする余裕を学芸員に与えず、常に「儲けろ」「入場者を増やせ」という圧力をかけることによって、学芸員を忙殺させ、考える時間と余裕を与えないようにしたいのでしょう。すでに「雑芸員」と呼ばれ、なんでもかんでも縦横無尽に働かされている学芸員の皆さんが、これまで以上に精神的・肉体的な負担がかかってしまったら、まともな研究など一切できなくなってしまうことは必定です。
「儲け」なんて、はっきり言ってどうでもいい。政府はミュージアムの「原則無料化」を完全実施するべきです。そして、もっと学芸員が充実した研究・展示ができるように待遇改善も進めるべきです。このような考えは荒唐無稽なものでもなんでもありません。憲法や博物館法によって、実現が約束された“当たり前”のことに過ぎません。当たり前じゃない主張を公然とかざす当たり前じゃない政府の皆さんに猛省を促したいです。(2026年3月14日20時55分脱稿)

