銭ゲバ国家ニッポン#5(最終回) 市原尚士評

拙稿「銭ゲバ国家ニッポン#4」では、ミュージアムを黒字化するための3つの具体的提言を掲げました。その上で、「赤字を恥じることはない」とミュージアムの皆さんに訴えました。まぁ、理念としては「赤字で全然OK」なのですが、誰だって赤字よりは黒字の方が気持ちいいのは確かです。ということで、最終回となる本稿では、黒字化のための具体的な処方箋をお示ししたいと思います。机上の空論ばかりを弄している政府の皆様におかれましては、本稿を参考の上、ミュージアム活性化のためにまい進していただければと思います。

滋賀県立美術館の「イシダ フリーサタデー」はご存じですか?
毎週土曜日の常設展が誰でも一律無料になるという大変、素敵な取り組みです。無償化のためにお金を出している株式会社イシダは、美術館のHPできちんと会社の宣伝もできていますし、何よりも会社のイメージアップにつながるので、費用対効果は抜群です。「この常設展が無料なのはイシダさんのおかげなんだ」と来場するたびに噛みしめるわけですから、下手な広告を新聞やテレビに出稿するよりもはるかに大きな効果があります。

私の場合は、滋賀県立美術館の展示がそもそも好きですし、また、滋賀の英雄・野口謙蔵(1903~1944年)が世界に誇れる偉大な画家だと確信を持ち、多大な興味を持っていることもあり、過去に何度も滋賀のあの不便な場所に足を運んでいます。超早朝に新幹線に乗り、朝一番の開館と同時に滋賀県立美術館で鑑賞した後は京都、または大阪に移動し、トータルで2泊3日(もしくは1泊2日)の美術鑑賞旅行をするというのがお決まりのルートになっています。

まぁ、イシダさんのフリーサタデーがなくとも美術館に足を運ぶわけですが、とはいえ、イシダさんの取り組みは非常に洗練された社会貢献だと思います。美術館の常設展の枠を企業が数年分、丸ごと買い取って、無償展示を実現するという取り組みが全国に広がればいいなと思いまして、滋賀県立美術館の素晴らしい取り組みをご紹介した次第です。

もちろん、本音を言えば、高い税金を私たち国民から取っている政府が、きちんと常設展無償化の財政措置を取ってくださることを期待していますが、無能なお役人の皆さんには、そのような難易度の高い、いや高すぎる施策を実現するのはほぼ不可能でしょうから、仕方なく代替案をひねり出していると理解してください。

政府に期待できないと痛感している私が、最も期待を寄せるのは、やはり民間の力です。アメリカのメトロポリタン美術館のコレクションが市民やコレクターの寄付によって形成されていることは有名です。そして、寄付した美術品の時価に応じて税控除が認められています。これを日本でも行えないか、と真剣に考えます。美術品の寄付でもいいですし、ミュージアムに対する現金の寄付でもいいのです。税の控除額を大幅に引き上げられないのでしょうか?

たとえば、5億円寄付したら、同額の5億円が税控除される、なんてことはできないのでしょうか?
こんなこと言うと、財務省の役人から鼻で笑われそうですが、私は本気です。寄付額と同額控除されるのであれば、企業側は何の損もしませんから、こぞってミュージアムに寄付してくれるのではないでしょうか?

滋賀県立美術館のイシダさんと同様、企業のイメージアップを図りながら、しかも節税効果も絶大なものがあれば、どんな企業だって寄付してくれるのは間違いないです。まぁ、寄付と同額の税控除は、あまりにも夢物語かもしれませんが、寄付の半額が税控除される、つまり5億円寄付したら2億5000万円の税控除ができるということにでもなれば、それでも多くの企業が興味を持ってくれるのではないでしょうか?

要するに政府のやる気の問題です。自分たちがミュージアムに本来支出すべきお金を出さないでおいて、ミュージアム側の自助努力だけで「何とかせい」と偉そうに伝えるだけの無責任政府なわけです。自分たちが本気でミュージアムの活性化のために努力しようという気があれば、お金だって出すはずなのに、その当たり前のことが全然できない政府なわけです。自分たちにやる気がないくせに、民間による寄付促進を邪魔しないでほしいのです。

政府(財務省)の立場からすれば、5億円の税収が全額、ミュージアムのために使われるのは耐え難いかもしれません。しかし、本来であれば、その5億円は、政府がミュージアムの振興・活性化のために支出すべきお金だったのを忘れてはなりません。

私たちが高い税金を支払っても、優良な市民サービスのために使われないのであれば、企業による5億円の寄付がミュージアムの充実化、来館者入場料の無償化に使われるのであれば、むしろ私たちにとっては大歓迎です。政府の皆さんが無能極まりないので、税金の使い方に関して、私たち国民はまったく信用できません。であれば、政府がやろうとしないミュージアム無償化のための原資を民間からの寄付で賄おうと考えるのは自然の道理ではないでしょうか?

いわば寄付&控除による財政面での直接民主制を導入しようじゃないか、という提案になります。寄付額と同額が控除され、しかも社会貢献という良いイメージを世間に発信できるのであれば、どの企業もこぞって寄付するのは間違いないので、ぜひとも政府の皆さんには真剣に検討してほしいです。

まぁ、いくら私が懸命に提案しても、政府の方々は愚かしいこと極まりない中期目標の励行に努めるのでしょうから、「暖簾に腕押し」な気もします。冗談ではなく、頭の悪い財務省官僚などは、「儲かる図書館」と今にも言い出しそうで冷や冷やします。

だって、すでに「儲かる大学」「儲かるミュージアム」って言っているくらいですよ、明日にも「儲かる図書館」と言ってもおかしくないです。本を借りるのが有料になるーーそんな社会はまっぴらごめんです。一般の企業であっても「儲ける」ことは本当に難しいのに、どうして公共の市民サービスという本来、税金を原資に充てて原則無料であるべきものが自由競争の波にさらされ、「1円でも多く稼げ」などと政府から尻を叩かれなければいけないのでしょうか? 本末転倒とはまさにこのことです。

頭の中が銭ゲバになっている政府の皆さんのせいで、私たち市民は多大な被害を受けています。多額の税金を納めているのにもかかわらず、まともな使われ方がされていません。そして、増税だけでなく福祉サービスの後退ぶりも顕著です。インバウンドへの二重価格を実施し、夜間も開館し、金がもうかる(めでたしめでたし)ーーなどという妄想を金輪際、捨ててください。ミュージアムの現場の方々の負担は、今でもかなり深刻ですが、これ以上、負担をかければ、いわゆる「ラストストロー現象」が起きても不思議ではないですよ。

学校の教員も、あまりの行き過ぎた管理化のせいで精神を病み、働けなくなってしまっている方々が多くいます。そして、教員が完全なるブラック職場であることが誰の目にも明らかになっているため、教員志望者が少なくなっています。給料を上げればいいだろう、では解決策にならないのが政府には分からないのです。思想の内面、人間の尊厳までも完全に弾圧・管理しようとする職場であることが分かっていながら、教員になるバカはいません。それと同じことが、ミュージアムの職員の皆さんにも降りかかってきそうで恐ろしいです。(いえ、すでに降りかかっていると思いますが)。

最初は「金を儲けろ」からスタートし、最後の本丸は、教員への弾圧と同様、まともな研究をしている学芸員への弾圧になることは必至です。政府に反抗的な内容の研究や展示をしている学芸員は教員同様、何らかの処分を受ける恐れがあります。

そして、一番問題なのは、政府の考える「政府に反抗的」という考えそのものが極めて偏頗、狭量な歴史観・価値観に基づいた愚かなものであることを政府の当事者がまったく気が付かないという点にあります。政府は本当に愚かすぎます。真に日本のためになる研究が「政府に反抗的」などという浅薄皮相な捉え方であたかも悪いことでもしているように決めつけられてしまうのは、到底、容認することができません。

ミュージアムの皆さん、もし政府が「閉館を含めた再編の対象にする」と次期中期目標で脅しをかけてくるのであれば、こう言い返してみてはいかがでしょうか?

「おぅ、やれるもんならやってみな。日本を代表する12のミュージアムが全部、閉館したり、数が減って恥をかくのはお前さん方だよ」

そして、政府がくだらない「儲かるミュージアム」を恫喝交じりで言ってくるのであれば、12ミュージアムの全員でストライキを起こしてみてはいかがでしょうか? インバウンドが多くミュージアムに訪れる時期を見計らって。海外に日本のミュージアムのおかれている窮状が報道されれば、赤恥をかくのは政府のあほな役人たちですよ。ストライキはやってみる価値はあると思います。

それにしても、です。政府の皆さんの教養のなさにはいつも驚き、呆れるばかりです。美術品や各種の文化財が、何か金儲けの起爆剤になるのではないか、という発想の貧困さは、彼らが受験勉強の面では秀才だったかもしれないが、教養はまったくないことを証明していると思います。官僚の皆さん、今からでも遅くないので、お勉強ではなく、「学問」をきちんとしてみませんか?

学問をすれば、人間の幸せが金儲けではない、もっと大事なものから形成されていることが分かるはずです。おっと、「もっと大事なもの」が具体的に何か、あなた方には絶対に教えません。知りたかったら、懸命に学問をしてください。1年間に古典を10冊、精読してください。10年間で100冊になります。これを愚直に取り組んでいただければ、銭ゲバ主義を脱却して、もう少し、まともな官僚になれるはずです。国民の皆さんの前に出しても恥ずかしくない人間になってから、初めて政策を立案・提言してください。

文化庁の次期中期目標の内容、何度読んでも、採点するとしたら「0点」にしかなりません。赤点をはるかに下回る「0点」です。このままでは、皆さん、日本の輝かしい未来に向けた“進級”は不可能です。もっと学問を積んで、国民のまともな意見に耳を傾ける“補習”を受けて、ましな内容の中期目標を出してくださいな。

「財務省の圧力があったから」的な恨み節も一部報道で散見されますが、最終的に日本の未来のミュージアムを良くするも悪くするも、文化庁の皆さんの双肩にかかっているわけですから、財務省のせいにするのは言語道断です。財務省のあほとはもっと徹底的に闘ってください。それがあなたたちの仕事です。ミュージアムを始めとする国民全体にくだらない中期目標を押し付けている場合ではありませんよ。

海外でも多くの財政的な問題がある中、一流ミュージアムが観光客も含めて無料で展示を見せているわけです。そのように無料にしてくれている国に私たちはどれだけ良いイメージを抱けるでしょうか。その有形無形の経済的効果には計り知れないものがあると確信します。だって、そんな素敵な国、何度でも行きたくなりますもの。「損して得取れ」ではありませんが、ミュージアムを無償化することで、かえって多くの得をするのが現実です。

日本政府の愚かな官僚の皆さん、もう少し諸外国の制度を研究した上で、少しでもましな政策を立案してください。とりあえず、私の中では「儲かる大学」も「儲かる美術館」もすべての銭ゲバ主義の政策は0点なので、もう少しましな答案を作ってきてから、出直してください。このままだと「一流国」に進級できないぞ。先生(=国民)は怒っているぞ。(2026年3月15日16時42分脱稿)

著者: (ICHIHARA Shoji)

ジャーナリスト。1969年千葉市生まれ。早稲田大学第一文学部哲学科卒業。月刊美術誌『ギャラリー』(ギャラリーステーション)に「美の散策」を連載中。