【ノーベル平和賞もののグラフィティ?】
2024年のノーベル平和賞は、日本原水爆被害者団体協議会(日本被団協)に授与されました。その授賞式が行われることで知られるオスロ市庁舎にはエドヴァルド・ムンクが1910年に描いた油彩「人生」を始め、多くの実力派画家の壁画や油彩画が鑑賞できます。簡単な荷物検査を受けるだけで、入場無料で楽しめるのでオスロの人気観光スポットになっています。当然、筆者もたっぷりと市庁舎内にとどまり、あれこれ鑑賞しました。

ムンクの油彩「人生」がかかっているオスロ市庁舎内「ムンクの間」

オスロ市庁舎を背にして右側の構造物

オスロ市庁舎を背にして右側の構造物

オスロ市庁舎を背にして右側の構造物。「ViF」というのが作者の“名前”のようだ
さて、もうそろそろいいかな、と思い、市庁舎を出た時に、筆者は妙な構造物に気が付きました。市庁舎を背に立つと建物を挟むように右と左に不等辺三角形の形状をした小さな物置(?)が立っているのです。何のための構造物なのか、観察大好きな筆者が凝視を続けてもまったく分かりません。とにかく、あまり大きくない三角柱なのです。右の三角柱も左の三角柱もほぼ同じ形状です。市庁舎の中心に対称軸となる直線を伸ばすと、完全に線対称の位置に右と左の三角柱は位置しています。かつて、守衛でも立っていた場所を封鎖しているのでしょうか?

オスロ市庁舎を背にして左側の構造物

オスロ市庁舎を背にして左側の構造物

オスロ市庁舎を背にして左側の構造物
そして、三角柱の側面となる3面には、びっしりとグラフィティの力作が覆っているのです。つまり、2つの三角柱ですから、合計6点のグラフィティが見られます。ただ、不思議なのは、このグラフィティが完成してから結構な時日が経過していると思われるのに、オスロ市当局が放置している点です。
観光客も多く集まる市庁舎前に、ド派手な6点のグラフィティが放置されているーーしかも、作風から見て世界中でちやほやされているバンクシーのものとも思えません。もしかして、オスロ市がグラフィティの制作を著名なライターに委嘱でもしたのでしょうか? いやいや、そんな訳はなさそうです。やはり、誰かが違法行為であることを重々承知の上、夜の闇に紛れて描いた感じです。
色々と謎が謎を呼ぶ、グラフィティ三角柱ですが、ラクガキを通じて、暗い北欧の地に色彩を与えていることに貢献しているので、ノーベル平和賞ものなのかも?
【プーチンは不人気】
常にロシアの脅威を受け続けてきたフィンランド。その首都であるヘルシンキを歩いていると、あちこちにプーチン大統領、およびロシアへの抗議のメッセージを込めたステッカーが貼られているのを確認できました。いつ、ロシアが侵攻してくるかも分からない地理的要因を踏まえると、このステッカーの持つ意味合いが分かります。

ヘルシンキ市内で見つけたステッカー(上部)。ヒトラーとプーチンを合成したような画像が目を引く

ヘルシンキ市内で見つけたステッカー

ヘルシンキ市内で見つけたステッカー
ステッカーは、簡単に持ち運びができるグラフィティのようなものです。グラフィティは公共の場所で制作をするので、いつ逮捕されるか分かりません。しかし、ステッカーは、あらかじめ自分の好きなデザイン、メッセージを盛り込んだものを懐に忍ばせ、ここぞという場所でぱっと貼るだけです。手際よく処理できれば貼り終わるのに1秒もかからないでしょう。
筆者は、グラフィティもステッカーも“街という身体”に施されたタトゥー(刺青)なのではないか、と以前より考えております。都市を一つの大きな身体と捉えた時、あちこちの身体部位を彩るもの、それがグラフィティやステッカーなのではないか、ということです。欧米の方々にとって、タトゥーを我が身に施すことにあまり抵抗感がないように見えます。とすると、「街に施すタトゥー」に対しても、日本人ほどは嫌悪感を持っていないのかもしれません。
もちろん、実際は、ヨーロッパでも各自治体などが懸命に消去・除去のためにお金は使っていますが。グラフィティーとステッカーとタトゥー…この3者の関係性については、今後も考察を深めていきたいと考えております。(2025年5月5日16時3分脱稿)
*「彩字記」は、街で出合う文字や色彩を市原尚士が採取し、描かれた形象、書かれた文字を記述しようとする試みです。不定期で掲載いたします。