さる2023年12月、ハンブルクにあるヴァールブルク・ハウス Warburg-Haus を訪れた。東京藝術大学の佐藤直樹教授(西洋美術史)と林卓行教授(美学)の引率による芸術学科の学生達の研修旅行に同行する僥倖を得たためだ。ヴァールブルク・ハウスは美術史家アビ・ヴァールブルク Aby Warburg が1926年に開設した私設図書館を1995年に当時の建物を用いて復元された施設で、ハンブルク大学の所管にある。図書館の両隣は、裕福な銀行家一族であったヴァールブルク家の住居であったという。
個人の名を冠したアーカイヴといえば、その本人の収集した資料の保管庫を想起するだろう。筆者はかつてハラルド・ゼーマンが遺したスイス、マッジアのアーカイヴを調査したが、2011年その資料はカリフォルニアのゲッティ財団に移されたという(筆者未見)。可能な限りオリジナルの分類に従ったとはいえ――分類と物理的保管というアーカイヴにつきまとう両立不可能性によって――そこではかつてのキュレーターの脳内を象徴するような混沌とした臭いは希薄になったようだ。
ところでヴァールブルクといえば、ロンドンのウォーバーグ研究所 Warburg Institute があるが、そこに収められている資料は、ヴァールブルクの没後にナチスの台頭を恐れ1933年にハンブルクから移送されたものだ。ハンブルクに所蔵されている資料はというと、ロンドンに送り出した蔵書をそっくりそのまま購入することで復元したのだという。さらに驚くべきは、ヴァールブルクの思想を引き継ぎ、イメージをカード分類したデータボックスが研究者によって更新され続けている。アーカイヴ発祥の地に、ビッグデータのフィジカルコピーが復元され、さらに人の手によってその思想が拡張生成され続けている。つまりこのアーカイヴではヴァールブルクの思想が拡大した頭脳として今もなお生きている。
ヴァールブルクの時代から100年を経て、学生が「イメージによる分類」すなわち美術史の手法と検索エンジンの先駆けともいえるインデックスカードを手に取ることは、AI時代に自らが新たな方法論を編み出すための手がかりになりはしないか、と期待を寄せた。なおこのデータボックスは、近いうちにデジタル公開化される見込みとのことだ。
Warburg-Haus
https://www.warburg-haus.de/en/
The Warburg Institute
Harald Szeemann Archive and Library
https://www.getty.edu/research/special_collections/notable/szeemann.html
F. Derieux, F. Aubart, J. Cistiakova, H. Kim, L. Pesapane, F. Pinaroli, K. G. Roalandini-Beyer, Y. Tokuyama, and S. Woods ed., Harald Szeemann, Individual Methodology, Magasin CNAC, Grenoble, JRP|Ringier, Zurich, November 2007. (In French and English)