筆者は、ポール・セザンヌの絵画に、蒸気鉄道による視覚の変容の影響があることを世界で初めて指摘した。その過程で、セザンヌの自筆書簡と実作品の分析に基づき、彼の絵画に「構図の中心点」が存在することも世界で初めて指摘している。
・秋丸知貴「ポール・セザンヌの中心点――自筆書簡と実作品を手掛りに」『形の科学会誌』第26巻第1号、形の科学会、2011年、11-22頁。
初出は、上記の学会誌の査読付き論文である。セザンヌの「構図の中心点」の定義は、同稿を参照されたい。
なお、同稿は、筆者が京都芸術大学に提出して2012年度に博士学位を授与された『ポール・セザンヌと蒸気鉄道』の第4章でもある。また、同稿及びその続編は、『美術評論+』で公開している。
『ポール・セザンヌと蒸気鉄道 補遺』第2章「ポール・セザンヌの中心点(1)――自筆書簡と実作品を手掛りに」秋丸知貴評 – 美術評論+
『ポール・セザンヌと蒸気鉄道 補遺』第3章「ポール・セザンヌの中心点(2)――自筆書簡と実作品を手掛りに」秋丸知貴評 – 美術評論+
ここでは、それ以後のセザンヌの実作品の調査から判明したセザンヌの構図の中心点を紹介する。
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図1 ポール・セザンヌ《ポントワーズの橋と堰》1881年
図1 図解
国立西洋美術館の所蔵作品。画面中央の遠景の三角屋根の上の頂点の白い小点が、構図の中心点である。この作品では、セザンヌは歩道橋と鉄道橋が重なっていることを示唆するため両者を少しずらしている。そのため、構図の中心点も、歩道橋の中央のアーチリブの真ん中上方ではなく少し右側にずれている。
図2 ポール・セザンヌ《葉を落としたジャ・ド・ブッファンの木々》1880年代
図2 図解
国立西洋美術館の所蔵作品。画面中央からやや右側の遠景の稜線上にある白い小点が、構図の中心点である。こうした稜線上に中心点があるのは、《マルセイユの湾岸、エスタックからの眺め》(1885年頃)(R. 625)に共通している。この白い小点を構図の中心点として見ると、画面左右の樹木が円を描いているように感じられる。
図3 ポール・セザンヌ《サント・ヴィクトワール山とシャトー・ノワール》1904-06年
図3 図解
アーティゾン美術館の所蔵作品。サント・ヴィクトワール山の中腹を右斜め下に走る2本の斜線の内、上の斜線上にある濃い青色の小点が、構図の中心点である。こうしたサント・ヴィクトワール山の中腹に構図の中心点があるのは、コートールド研究所所蔵の《サント・ヴィクトワール山と大松》(1887年頃)(V.454)と共通している。この濃い青色の小点を構図の中心点として見ると、画面上下の緑に囲まれた余白が円を描いているように感じられる。
図4 ポール・セザンヌ《帽子をかぶった自画像》1890-94年頃
図4 図解
アーティゾン美術館の所蔵作品。セザンヌの鼻の下の溝(人中)を形作る小さい黒丸が、構図の中心点である。この黒丸を構図の中心点として見ると、画面左下の余白が円弧を描いているように感じられる。