◎秋丸知貴
祈りのかたち――小川佳夫、平野泰子、前田信明、加藤舞
2024年11月25日-12月8日
古美術長野(東京都港区)
R・ローゼンブラムの『近代絵画と北方ロマン主義の伝統』を念頭に、戦後アメリカ美術の文脈をきちんと踏まえた上で現代日本美術のアクチュアルな一側面を提示。小川佳夫、平野泰子、前田信明、加藤舞が出品。MARUEIDO JAPANの企画で、大島徹也のキュレーションが冴えていた。https://critique.aicajapan.com/7518
MAFIN(Miyajima Art Festival in the Narrative)
2025年4月26日-5月25日
宮島弥山大本山 大聖院(広島県廿日市市)
広島県の聖地宮島弥山にある、厳島神社と対になる大聖院で開催された本年初回の芸術祭。康夏奈、久保寛子、Chim↑Pom from Smappa!Groupが出品。イタイミナコを実行委員長とする宮島芸術祭実行委員会の主催で、戸塚愛美のキュレーションが新時代の芸術祭を予感させた。https://critique.aicajapan.com/10446
蓮井幹生 個展「十七の海の肖像」
2025年8月23日-9月15日
YUGEN Gallery FUKUOKA(福岡県福岡市)
本年6月に東京南青山のYUGEN Galleryで開催された個展の福岡巡回展。こうした佳企画が地方でも鑑賞できるのはありがたい。僧侶でもある写真家蓮井幹生の講演を聴き、その真摯さに打たれた。かそけき美は控えめで寡黙だが、無視して良い訳ではない。https://critique.aicajapan.com/12916
◎市原尚士
大山エンリコイサム|Abstractions / Extractions
2024年10月19日-11月30日
Takuro Someya Contemporary Art(東京都品川区)
書道に備わる、呼吸(=息)の身体性、反復を可能にしてくれる型「筆順」、さらには、瞬間的な発想による即興的な運筆……これらの美点が、ニューヨークで発展したエアロゾル・ライティングの系譜と見事に融合して、見る者の心をワクワクさせてくれる。
今津景 タナ・アイル
2025年1月11日-3月23日
東京オペラシティ アートギャラリー(東京都新宿区)
巨大な画面が目を引く今津の作品だが、横4本、縦9本、等間隔で線を引いて切断し、50枚の絵に分割したと仮定した時、その小さな絵のそれぞれがきちんと作品になっていることに驚かされる。「心技体」のすべてが充実した者のみが達成しうる画業に圧倒された。
望月桂 自由を扶くひと
2025年4月5日-7月6日
原爆の図 丸木美術館(埼玉県東松山市)
好著『安曇野の美術 安曇野風土記IV』(安曇野市、2021年)を読んだ際、一番興味を持ったのが望月桂だった。この偉大な芸術家の生の軌跡を「これでもか」と追いかけてくれた、すさまじい熱量の企画展だった。展示に携わった全ての関係者に感謝!
◎川浪千鶴
パブリック・ファミリー(都美セレクション グループ展2025)
2025年6月10日-7月2日
東京都美術館(ギャラリーC)(東京都台東区)
パブリックとファミリー、この組み合わせが醸す違和感こそが鍵。プライベートだと思い込んできた家や家族には、家父長制や家制度などの前提や拘束が纏わりついている。5作家それぞれの問題提起と提案からなる本展は、社会に横串と縦串を同時に差し込むような鋭さと、そこに風を吹き込む爽快さを併せ持っていた。
国際芸術祭「あいち2025」―灰と薔薇のあいまに
2025年9月13日-11月30日
愛知芸術文化センター、愛知県陶磁美術館、瀬戸市のまちなか(愛知県)
「いま・ここ」の視点が明快な国際芸術祭の深化系。千年近い焼き物の歴史をもつ瀬戸の文化を基軸に、「破壊と死」を踏まえながら「再生と復活」を希求する想像力を、そのあわいで日々行われている土地に根差した生活と共に鮮やかに浮かび上がらせた。目指す姿をステートメントとして発信した意義も深い。
特別展「奈良ゆかりの現代作家展 安藤榮作 ―約束の船―」
2025年9月13日-11月16日
奈良県立美術館(奈良県奈良市)
東日本大地震による被災で多くを失った安藤が、林業の伝統豊かな奈良移住後の15年間で制作した、大小無数の木彫群が館内を埋め尽くした。手斧を使って激しくかつ黙々と彫り刻む行為もその結果も、どこか「祈り」を感じさせる。圧巻の大作《福島原発爆発ドローイング》の前では思わず足がすくんだ。
◎小勝禮子
MOTコレクション「竹林之七妍」
2024年8月3日-2024年11月10日、2024年12月14日-2025年3月30日
東京都現代美術館コレクション展示室(東京都江東区)
学芸員藤井亜紀の企画により、高木敏子、漆原英子、小林ドンゲから前本彰子まで、本展初公開の新収蔵も含めて、7人の女性作家を集結させた。同館所蔵の河野通勢の絵画(展示)より採られたタイトルも洒落た、収集と展示が連携した好企画!
石内都 STEP THROUGH TIME
2024年8月10日-12月15日
大川美術館(群馬県桐生市)
美術館の改修前を機に、同館で初めてすべての展示室で展開。1976年《はるかなる間》から今に至る石内の「現在」をヴィンテージ・プリントと当時の看板や解説パネルとともに現出させた。石内都という圧倒的な熱量の写真家による大川美術館の占拠!
夜明けの荒野を走って 池口史子×碓井ゆい展
2025年7月4日-8月3日
堺屋太一記念 東京藝術大学 美術愛住館(東京都新宿区)
1994年の池口史子の個展を見て触発されたある女性によるキルトの制作と日常生活のつぶやきという架空の物語が、池口の絵画と碓井ゆいによるキルト作品とテキストで、池口がかつて居住した愛住館の空間の中で展開される。碓井の構想に企画者、難波祐子と池口らがコラボした、劇場型ジェンダー展!
◎徳山由香
過去のための未来 ビュールレ・コレクション:芸術、コンテクスト、戦争と衝突(A Future for the Past — The Bührle Collection: Art, Context, War, and Conflict)
2023年11月−2025年9月30日
チューリッヒ美術館(チューリッヒ、スイス)
チューリッヒ美術館に半永久貸与された欧近代を中心とする珠玉の名品群。コレクター、ビュールレのナチスとの関わり、武器販売で財を成した過去を掘り下げ、議論を促した。作品には罪がないとはいえ、観客が当然のように享受してきた、見るという行為を再考する機会となった。https://buehrle.kunsthaus.ch/en
エディ・ヒラ|テア・ジョルジャゼ Edi Hila | Thea Djordjadze
2025年4月25日-10月5日
ハンブルガー・クンストハレ(ハンブルク、ドイツ)
旧ソ連かつ東欧と西アジアの境のアルバニア、ジョージア出身の二人の個展。ヒラの絵画は地元の風景を徹底して自己の眼を通して描き出す。ジョルジャゼは金属、アクリル、粘土などで詩的な空間を形造る。隣り合う空間で好対照を見せたアーティストとキュレーターの仕事を心から祝福したい。https://www.hamburger-kunsthalle.de/en/exhibitions/edi-hila-thea-djordjadze
《平和の少女像 アリ》キム・ウンソン、キム・ソギョン
2020年9月−2025年10月17日
ミッテ区モアビット路上(ベルリン、ドイツ)
5年間ベルリンの街角に座していた平和の少女像が撤去された。注目すべきはアリが静かに示し続けたその姿が、政治的意図を超えて、あらゆる暴力、差別への抗議として広く地元民に支持されていた点にある。芸術のもつ象徴的な力に大いに勇気を得た。
◎中塚宏行
橋本倫 展
2024年11月15日-12月14日
+Y Galley(大阪府大阪市)
いわゆるモダニズムの系譜と異なる、神話、神秘、瞑想、超越、霊感、象徴、幽冥の絵画。東京ではなびす画廊で継続的に発表、関西では+Y Galleyで2017、22、24年に展示。2014-15年の「スサノヲの到来-いのち、いかり、いのり」展(足利市立美術館ほか)にも出品。
特別展「奈良ゆかりの現代作家展 安藤榮作 ―約束の船―」
2025年9月13日-11月16日
奈良県立美術館(奈良県奈良市)
京都場(4.26〜6.15)での、安藤榮作、黒宮菜菜、嶋田ケンジ、中津川浩章、米谷健+ジュリアによる「舟を呼び、舟に呼ばれる」展の一人。奈良では大規模な個展で、安藤の世界があますことなく展開。大画面の素描にも圧倒される。
特別展「生誕151年からの鹿子木孟郎 -不倒の油画道-」
2025年9月27日-12月14日
泉屋博古館(京都府京都市)
49年前に道立近美の常設展で、後ろ向きの「裸婦」油彩(1902頃)(80.4×44.2)を見たのが最初。25年振りの展覧会。作家の全体像を知るとともに、写実とは何か、リアリズムとは何かをあらためて考える良い機会になった。
◎藤嶋俊會
瀧本光國「そこにあるものがいつのものなのか」
2025年8月23日-9月27日
東京画廊+BTAP(東京都中央区)
瀧本は古い仏像の修復を専門に手掛けているが、若いころ豊福知徳に弟子入りをするほど現代彫刻にも関心を持っていた。中世と現代が交錯したような作品を作る。今回は「鳥獣戯画」という平安の絵巻物に描かれたワンシーンを木彫にする。巻物仕立ての「戯画」はいわば平安時代の動画といってよく、瀧本の彫刻はそれにいとも簡単に呼応しており、ユーモラスである。
「戦後80年 《明日の神話》次世代につなぐ 原爆×芸術」展
2025年7月19日-10月19日
川崎市岡本太郎美術館(神奈川県川崎市)
毎年8月になるとジャーナリズムは戦争の記事で埋められる。しかし戦争を直に体験した人も少なくなっている。芸術を通して次の世代に原爆(核)の問題を伝える役割が求められている。展覧会は、広島市内の高校卒業生42人による被爆の絵画と、9人と1組の現代作家による芸術と原爆の衝突をテーマにした新作、それに大家である岡本太郎の怒りの籠った「明日の神話」の3層構造が響きあっていた。
酒井忠康、神奈川文化賞受賞
受賞理由は「近現代美術の研究に尽力」とあるが、それだけにとどまらない。1964年学芸員として鎌倉にある神奈川県立近代美術館に勤務、そこで土方定一館長の薫陶を受ける。1979年に『開化の浮世絵師 清親』で第1回サントリー学芸賞を受賞する。近現代美術の作家の調査研究と展覧会の企画を一貫して続けながら、全国の野外彫刻の調査研究と展覧会企画も手掛ける。公職として1992年近代美術館の館長、定年後は2004年から2024年まで世田谷美術館館長を勤める。また2001年から22年まで美術館連絡協議会の理事長として美術館の共同企画や学芸員の育成に努める。『芸術の海をゆく人―回想の土方定一』(2016年)は味わい深い名著である。
◎藤田一人
練馬区立美術館、目黒区美術館の建て直し計画延期
練馬区立美術館、目黒区美術館の建て替え計画が、建設費の上昇によって、当初の予算では建設事業者を確保できず、計画が延期に。今後、人口減少と財政難のなかで、公立文化施設の適正な規模とあの方が問われる。
ACN ラムセス大王展 ファラオたちの黄金
2025年3月8日-2026年1月4日
ラムセス・ミュージアムat CREVIA BASE Totyo(東京都江東区)
コロナ禍以降、展覧会入場料の上昇が続くなか、シンガポールを拠点とするエンターテインメント企業が日本に進出。その第一弾の同展の入場料は一般平日4100円、土日祝日等4300円。展覧会の興行化を象徴する。
モネ 睡蓮のとき
2024年10月5日-2025年2月11日
国立西洋美術館(東京都台東区)
同展の東京会場の入場者数は80万7560人。その後、京都市京セラ美術館、豊田市美術館に巡回し、観客動員を伸ばした。それはまさに、コロナ禍以前の“ブロックバスターの復活”を決定づけた。
◎水野勝仁
余宮飛翔「Mask」
2024年10月5日-10月27日
PHOTO GALLERY FLOW NAGOYA(愛知県名古屋市)
写真とPhotoshopを用いて「つぎはぎ」感のある平面を構成し、凹凸を意識させつつ凹凸のない空間を作り出す。瞼を閉じても展示空間が同等の強度で意識に現れる体験は、目の前の現実と想像された空間が滑らかに入れ替わる稀有な感覚をもたらした。
中川もも「clonal Images: specimens」
2025年9月6日-9月28日
PHOTO GALLERY FLOW NAGOYA(愛知県名古屋市)
写真を「生態」として捉え、自己増殖のきっかけを与えるという姿勢に共鳴した。テクノロジーに使われる感覚を肯定的に引き受けながら、写真を通じてわたしたちを取り巻く情報そのものをあらわにしようとする意思を感じたし、作品が蠢いていた。
小林健太『#copycat』
2025年9月13日-10月12日
WAITINGROOM(東京都文京区)
レンチキュラー作品の前で身体を揺らし続けた。AIが生成した鋭角なオブジェクトが嵌入し合う像を持続させるには、揺れ続ける必要がある。ジャッドを想起させるトタンフレームの内側で刻々と変わる像を見ながら、「何を見ているのか」と考え続けた。
◎山村仁志
ルイーズ・ブルジョワ展:地獄から帰ってきたところ 言っとくけど素晴らしかったわ
2024年9月25日-2025年1月19日
森美術館(東京都港区)
ドローイング、水彩、油彩、大理石、刺繍など、どの素材にも一貫したオブセッションの血が流れ、どの作品も心臓と神経の強い痛みを感じさせる。際限のないトラウマの連続に慄いたが、同時にそれを形に昇華させる強靭な造形力があった。
サイトウマコト「トーベ・ヤンソンのドキュメンタリーを観た後で。-杜(もり)の譜(うた)-」
2024年11月16日-12月14日
タカ・イシイギャラリー六本木(東京都港区)
見ごたえがあった抽象絵画。マティエールの複雑さ、色彩と調子の微細で豊かな変化。オールオーヴァーの画面だが、絵の奥行きが確かに存在し、部分と全体が照応し合っている。流動する色染みの動きが制御され、微生物のように生きている。
一色映理子展「YES TO LIFE」
2025年1月13日-25日
Steps Gallery(東京都中央区)
100号も小品も見応えがあった。子どもがカーテンに包まって隠れている。白と紺色の階調による光の奥行きが美しい。子どもから発する白い光が周囲の空間に浸透して、見る者を包み込んでくれるように感じる。新しい生を肯定する力強い希望の展覧会。
◎山脇一夫
アンゼルム・キーファー:ソラリス
2025年3月31日-6月22日
京都市二条城 台所、御清所等(京都府京都市)
32年間誰もできなかった(しようとしなかった?)待望の展覧会がアメリカの画廊によってついに実現。しかも二条城という歴史的建造物を舞台とする日本独自の展覧会として。
小出楢重 新しき油絵
2025年9月13日-11月24日
大阪中之島美術館(大阪府大阪市)
これもまた「四半世紀ぶり」と謳われた展覧会。楢重の故郷大阪の地に新しく誕生した美術館で、大阪では久しぶりの大回顧展となった。
立ち現われる空間 久野利博 展
2025年4月15日―7月6日
岐阜市歴史博物館分館 加藤栄三・東一記念美術館(岐阜県岐阜市)
縁台、梯子、雨樋、木升、骨壺などの日常の道具類と、岩塩、茶葉、灰、炭などの自然素材を用いて現代空間と現代美術の文脈の中に日本固有の美を立ち上げるインスタレーション。久しぶりの美術館での個展。

