空海ゆかりの古刹、京都・神護寺が創建1200年を迎えたことを記念し、東京国立博物館 平成館で「創建1200年記念 特別展『神護寺ーー空海と真言密教の始まり』」が開催されている。神護寺が所蔵する仏像、絵画、工芸品などを展示し、空海が日本に伝えた真言密教の世界を深く掘り下げた企画展だ。
空海の思想と芸術が花開いた神護寺
神護寺の前身である高雄山寺は、空海が唐から帰国した後に真言密教の根本道場とした寺院という。
特に注目すべきは、近年修復された国宝《両界曼荼羅(高雄曼荼羅)》だ。「金剛界」と「胎蔵界」からなるこの一対の曼荼羅(※)は、空海が日本にもたらしたもので、密教の世界観を象徴する重要な作品である。近年の修復によって、色彩と緻密な描写がよみがえった。修復の際に、紫根という希少で高価な紫の染料が使われていたことがわかったという。その地色の可能な限りの復元によって、細かな描写が浮かび上がってきた点も興味深い。画面は4メートル四方、表装は縦6メートルにおよび、展示の機会はまれだったという。江戸時代の模本なども展示されており、併せて見ることで空海が創った寺の空気に身を浸すことができるだろう。
《薬師如来立像》などの名品も見逃せない
仏像愛好家には、《薬師如来立像》が特に見逃せない逸品だ。密教の尊像ではないというが、表情や重量感、重厚の衣のひだの表現など、細部を見るほどに感じ入る仏像である。
なお、後期展示では、後ろ姿も鑑賞できるようなしつらえになった。
大和絵の発祥を探る上で重要な作品である《山水屛風》、紺色の紙に金泥でしたためた文字や絵が美しい《大般若経》(紺紙金字一切経のうち)など、美術史的な観点からも興味深い作品が、多数展示されている。日本の寺院が美術の展開において重要な役割を果たしてきたことが推しはかられる点でも極めて興味深い展覧会である。
※本記事で「筆者撮影」と記した写真は、プレス内覧会で主催者の許可を得て撮影したものです。
【展覧会概要】