京都・神護寺の至宝の数々に触れて空海の世界に身を浴す@東京国立博物館平成館

空海ゆかりの古刹、京都・神護寺が創建1200年を迎えたことを記念し、東京国立博物館 平成館で「創建1200年記念 特別展『神護寺ーー空海と真言密教の始まり』」が開催されている。神護寺が所蔵する仏像、絵画、工芸品などを展示し、空海が日本に伝えた真言密教の世界を深く掘り下げた企画展だ。

空海の思想と芸術が花開いた神護寺

神護寺の前身である高雄山寺は、空海が唐から帰国した後に真言密教の根本道場とした寺院という。

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国宝《両界曼荼羅(高雄曼荼羅)》(平安時代、9世紀、国宝)より「胎蔵界」展示風景(前期展示の出品作につき、展示終了)。後期展示では、「金剛界」に掛け替えられている。筆者撮影

特に注目すべきは、近年修復された国宝《両界曼荼羅(高雄曼荼羅)》だ。「金剛界」と「胎蔵界」からなるこの一対の曼荼羅(※)は、空海が日本にもたらしたもので、密教の世界観を象徴する重要な作品である。近年の修復によって、色彩と緻密な描写がよみがえった。修復の際に、紫根という希少で高価な紫の染料が使われていたことがわかったという。その地色の可能な限りの復元によって、細かな描写が浮かび上がってきた点も興味深い。画面は4メートル四方、表装は縦6メートルにおよび、展示の機会はまれだったという。江戸時代の模本なども展示されており、併せて見ることで空海が創った寺の空気に身を浸すことができるだろう。

※「金剛界」は後期(8月14日(水)~9月8日(日))に「胎蔵界」は前期(7月17日(水)~8月12日(月・休))に展示される。

《薬師如来立像》などの名品も見逃せない

仏像愛好家には、《薬師如来立像》が特に見逃せない逸品だ。密教の尊像ではないというが、表情や重量感、重厚の衣のひだの表現など、細部を見るほどに感じ入る仏像である。

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《薬師如来立像》(平安時代、8〜9世紀、国宝)展示風景。筆者撮影(前期展示)

なお、後期展示では、後ろ姿も鑑賞できるようなしつらえになった。

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《薬師如来立像》の両脇侍は、《日光菩薩像》(右、平安時代、9世紀、重要文化財)と《月光菩薩像》(左、平安時代、9世紀、重要文化財)で構成されている。写真提供=同展広報事務局(後期展示)

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後期展示からは、後姿も公開されている。写真提供=同展広報事務局

大和絵の発祥を探る上で重要な作品である《山水屛風》、紺色の紙に金泥でしたためた文字や絵が美しい《大般若経》(紺紙金字一切経のうち)など、美術史的な観点からも興味深い作品が、多数展示されている。日本の寺院が美術の展開において重要な役割を果たしてきたことが推しはかられる点でも極めて興味深い展覧会である。

※本記事で「筆者撮影」と記した写真は、プレス内覧会で主催者の許可を得て撮影したものです。

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【展覧会概要】

展覧会名: 創建1200年記念 特別展「神護寺ーー空海と真言密教の始まり」
会場: 東京国立博物館 平成館 特別展室
会期: 2024年7月17日(水)~9月8日(日)※展示替えあり

著者: (OGAWA Atsuo)

1959年北九州市生まれ。東京大学文学部美術史学科卒業。日経BP社の音楽・美術分野の記者、「日経アート」誌編集長、日本経済新聞美術担当記者等を経て、2012年から多摩美術大学芸術学科教授。「芸術と経済」「音楽と美術」などの授業を担当。一般社団法人Music Dialogue理事。
日本経済新聞本紙、NIKKEI Financial、ONTOMO-mag、東洋経済、Tokyo Art Beatなど多くの媒体に記事を執筆。多摩美術大学で発行しているアート誌「Whooops!」の編集長を務めている。これまでの主な執筆記事は「パウル・クレー 色彩と線の交響楽」(日本経済新聞)、「絵になった音楽」(同)、「ヴァイオリンの神秘」(同)、「神坂雪佳の風流」(同)「画鬼、河鍋暁斎」(同)、「藤田嗣治の技法解明 乳白色の美生んだタルク」(同)、「名画に隠されたミステリー!尾形光琳の描いた風神雷神、屏風の裏でも飛んでいた!」(和楽web)など。著書に『美術の経済』(インプレス)