「銭ゲバ国家ニッポン」シリーズを書いている時に、筆者の頭の中で重要な気づきがありました。本稿では、その気づきを中心に私の疑問や怒りをつづっていくことにしましょう。
これまでの流れ、くどいようですがもう一度、おさらいしておきましょう。文化庁が次期中期目標で自己収入比率を上げろだの、収入目標の達成を義務付けるだの、とうてい実現不可能なことを国立の博物館・美術館に押し付けている。この流れは、いずれ地方の美術館にも移行するであろう恐れが高い。だから私は「美術評論+」で文化庁を徹底的に批判したわけです。
しかし、地方の美術館は本当に経済的な体力がありません。それを証明するような事実があちこちで見受けられます。「いくらお金がないからといってひどいなー」と常々、残念に思っている光景が地方にはごろごろ転がっていますので、本稿で紹介することにしましょう。
皆さんもお気づきでしょうか?
美術館、博物館、図書館、その他、公共の文化ホールなどを回っていて、コロナ前までは使えていた部屋が閉鎖されたままになっているケースを見かけることがあるのです。ちょっとした資料室だったり、図書室だったり、ワークショップ用の空間だったり、用途は様々ですが、いずれにせよ館内のある空間が閉鎖中のままなのです。
コロナ禍真っ盛り(?)のころでも私は、部屋を閉鎖してしまう理由がさっぱり分かりませんでしたが、当時、美術館等に行くと、「感染拡大防止を防ぐため」みたいな張り紙が出入り口に貼られていたものです。まぁ、百歩譲って2020年から2023年5月の「5類移行」までの期間であれば、部屋の閉鎖もやむを得ないということにしましょう。しかし、あれからもはや満3年近くが経過したのにもかかわらず、閉鎖が続いている空間が確かにあるのです。
私の推理を披露しましょう。まぁ、ただの推量に過ぎませんが……。要するに体の良い人員削減が各館で実施されてしまったということだと思います。
コロナ前まで、ある美術館が10人のスタッフで様々な業務に従事していたとしましょう。コロナ禍で館内の様々な空間が閉鎖され、機能も限定的な運用になってしまい、10人も必要ではなくなってしまったわけです。非常勤の2人に「コロナのせいなので、気の毒だけどやめてください。コロナが終息したら再雇用する可能性がないわけではない」と告げて首にしてしまったわけです。そして、8人だけでの業務が当たり前になったわけです。
ところが、コロナが終息しても美術館側は8人を以前の10人には戻していないのだと思います。なぜか? 地方のミュージアムにはお金がないからです。コロナを言い訳にして、人減らしをしたおかげで、若干、お金が浮いたわけです。この状態に気を良くした館側は「8人のままで運営をしようじゃないか」という結論に至ったのだと思います。繰り返しになりますが、全部、私の推理です。
人が少なくなったのであれば、コロナの時に閉鎖していた空間の一部を閉鎖したままで運用したくなる気持ちも少しは分かります。しかし、それが市民サービスの低下を招いていることは明々白々です。実際、私は地方のミュージアムに行って、「さぁ、あの部屋で少しくつろぐか」と足を運ぶと、閉鎖されていてガッカリ、という体験を何回もしています。書籍や資料が置いてあった場所が閉鎖されたままというパターンもあります。
これは一刻も早く、コロナ前の状態に戻すべきです。コロナで部屋が閉じている状態が当たり前の光景になっていたのはあくまでも昔の話です。2026年の現時点で「全部、コロナのせい」と、コロナを言い訳にした閉室などできないに決まっています。コロナは事実上、終わったのですから、コロナ前の運用に戻してほしいのです。スタッフの人数を10人から8人に減らしたせいで、業務のローテーションがきつくなることが予想されるのであれば、元通り、10人雇用すればいいだけの話です。
しかし、館としては「スタッフ8人」の状態に味を占めてしまい、10人に戻したくはないのでしょう。だから、8人で回せる範囲の部屋だけを開室したいということなのだと思います。また、ある部屋を閉鎖しておけば、その部屋の照明や空調や維持管理費も使わないで済みます。これは、バカにならない金額が浮きますよね。だから、閉鎖したままにするのでしょう。
こんなことは考えたくもないのですが、もしかしたらスタッフは減っていない恐れさえあります。つまり、10人のままで、コロナ禍の期間も業務を回していたのかもしれないのです。もし、そうであれば、一部の部屋を閉鎖したままにしているのはおかしいので、即刻、コロナ前の運用に戻してほしいです。
銭ゲバ文化庁のお役人の皆さんも、実現不可能な目標をミュージアムに押し付けたりする前に、やることがいくらでもあるのではないでしょうか?
5類移行前の段階では、文化庁も「コロナ禍における文化芸術支援について」「数字で見る文化芸術活動 わたしたちの直接鑑賞行動とコロナ禍の影響」といった取り組みや調査研究をしていました。しかし、5類移行後から現在にいたるまで「コロナ視点」での発信がいささか弱すぎるような気がするのです。
文化庁が全国のミュージアムに対して、2026年の今だからこそ、行わなくてはならない「Things to doリスト」、つまり行うべき調査の各項目を以下に列挙しますので、明日からでもいいので実行してください。
- 5類移行前まで、貴館は施設の一部を閉鎖、もしくは利用不可にしましたか? 具体的にどのような空間をどれくらいの期間、市民が利用できない状態にしたのか、その詳細をお答えください。
- 5類移行前まで、施設の一部を閉鎖・利用不可にしていた場合、館スタッフの人数を減らしましたか? もし減らした場合は、その人数と減らしていた期間等の詳細をお答えください。
- 5類移行後から現在に至るまで、貴館は施設の一部を閉鎖、もしくは利用不可の状態を継続していますか? もし、継続しているのであれば、具体的にどのような空間を閉鎖しているのか、その詳細をお答えください。とりわけ、現在も閉鎖している理由をお答えください。
- 5類移行前までに館スタッフの人数を減らした館の方にお尋ねします。現在の時点で、スタッフの人数を元に戻しましたか? 戻していない、つまりコロナ禍の期間に減らしたままで館の運営を行っている場合、その理由を詳細にお答えください。
- コロナ禍の影響を受け、館の経営は厳しいままの状態が続いているのか? それとも、独自の取り組み、工夫でコロナ前よりも館の収入は上向いているのか? コロナの前と後とで財政面の推移と、貴館の抱える問題点・課題等を忌憚なくご教示願いたい。
まぁ、まだまだ文化庁が全国の美術館に聞かなければならないことはたくさんありそうですが、これくらいにしておきましょうか。この調査を文化庁が真面目に行って、その結果が戻ってきたら、あほな役人の皆さん、顔面蒼白になるでしょうね、多分。コロナがいかに地方のミュージアムの運営を破壊してしまったかが分かると思うからです。同時に、次期中期目標という空理空論を振りかざしている自分たちのバカさ加減に直面すると思うからです。さらに言えば、全国のミュージアムを回っている私の実感が、やはり正しかったのだという証明にもなることでしょう。
金を稼げ、と簡単に言いますが、全国のミュージアムが現在、置かれている困窮・苦悩を文化庁の皆さん、本当に分からないのですか?
金を稼ぐ、そのはるか手前の状態で苦しんでいるミュージアムの現状をご存じないのですか?
そして、一般市民が、コロナ前に享受できていた市民サービスを現在、受けられていない可能性があることに関して、お役人の皆さんは目をつぶるのですか?
多くのミュージアムを回っている私は、「あれ、この美術館、この部屋をずっと閉鎖しているな」的な疑問をしばしば抱いていますよ。ただでさえ、貧困な内容のミュージアムが多いのに、さらに使えない部分がある不完全な状態での開館が継続されているとすれば大問題ですよ。
閑話休題。私が、全国のミュージアムを回っていて、非常に残念に思っているのが、コロナ禍の影響で、館内の喫茶店、飲食店がなくなってしまったケースが結構、見受けられるという点です。まぁ、元々、コロナ前からミュージアムの飲食店の経営は結構、厳しいといううわさを聞いたことはありましたが、コロナ禍で来場者がほとんどいなくなり、当然、飲食店もつぶれてしまったわけです。
問題なのは、店が閉店した後も、その空間を放置したままにしている施設が結構あるということです。後継となるお店を募集しているのか、いないのか? その辺りの事情は部外者である私にはよく分かりませんが、店がつぶれたままで、中に入れない状態のまま放置されているのです。
文化庁の皆さんが全国のミュージアムに聞かなければならない質問リストに、もう一つだけ追加させてください。この質問は、あくまでも飲食店、喫茶店などがある(あった)館を対象にして聞いてくださいね。
- コロナ禍が始まってから、現在に至るまで、貴館の館内テナントである飲食店は経営を続けていますか? 閉業してしまった場合は、閉業日と閉業の理由をお聞かせください。新たな店舗は、同一スペースに入居しましたか? もし、新店舗が入居した場合は、その店舗の概要と入居年月日をご教示ください。新店舗が現時点で入居していない場合は、今後、その店舗跡に飲食店を入居させる意向はあるのか、ないのか? 店舗跡に新店舗を入居させない場合、その店舗跡を市民サービスのため、どのように活用するおつもりでしょうか? 店舗跡活用案の詳細をお聞かせください。
私としては、ミュージアムには飲食店や喫茶店は絶対に欲しいです。長時間の鑑賞をすると、頭も心も結構、疲れるものです。喫茶スペース等で、今、自分が見てきた作品を振り返りながら、飲食をするのは至福の時です。
海外ミュージアムは、カフェ等が充実しているので、カフェを訪ねるのも楽しみの一つです。アメリカ・ボストン美術館の巨大なレストラン空間の充実ぶりにはあぜんとしましたし、イタリア・トリノの王宮内にある「カフェ・レアーレ・トリノ」も食器類が大量に飾られた重厚な雰囲気で圧倒されました。
アートを見るのと同じくらい、館の飲食施設でのくつろぎタイムが旅の思い出となるのです。まぁ、欧米ほどの立派な飲食スペースは日本では望めないことは百も承知です。それでも、ないよりはあった方が望ましいもの、それが飲食店なのだと思います。
現状、館内の一部空間が閉鎖されたまま、飲食店も閉業したままという惨状が続いているわけです。理由は、お金がどこにもないからです。文化庁の皆さん、このような市民サービスの顕著な低下が、このまま続いていてよろしいと思いますか?
市町村の自助努力を待っているだけで、文化庁を始めとする政府の皆さんが何も手を貸さないのであれば、コロナ禍を理由にした様々な“後退”がなし崩し的に拡大していく恐れさえあるわけです。そのような厳しい情勢の中にもかかわらず、不勉強なお役人の皆さんは、「サブカルをテーマにした展示をばんばん行って、金を儲けろ」「夜間開館で入場者数と収益増を目指せ」「インバウンドへの二重価格で儲けろ」といった極めて浅薄皮相な目標を掲げているわけです。
ミュージアムを巡る現実をお役人の皆さんにはきちんと直視してほしいものです。このままですと、「ミュージアムのスラム化」が進行しかねないと思います。施設は老朽化し、館内のデッドスペースが増え、閉店した飲食店の跡地利用をしたくても、そのお金すらないのですよ。
魅力がどんどんなくなる、おんぼろの美術館に誰が喜んで足を運ぶと思いますか? 私は酔狂な人間なので、ぼろぼろだろうが何だろうが全国のミュージアムを回って、そこにある多くの展示品との対話を楽しみますが、一般市民の感覚から言えば、わざわざ足を運ぶような施設にはなっていないと思います、残念ながら。
全国のミュージアムの皆さんにも言いたい。コロナはもう事実上、(とっくの昔に)終わりました。金も人もないミュージアムが市民に充実したサービスを行えていないという事実、コロナ禍の際は、コロナを(部分的に)言い訳にできましたけど、2026年の時点ではもはやコロナを言い訳にすることはできませんよ。
であれば、まともなサービスができるよう、あなたの館のある自治体の長に「もっとお金を出せ」と折衝を重ねる必要性があります。自治体の首長から「どうしてもお金はない」と答えが返ってくるのであれば、首長に「それなら、国からお金を取ってこい」と要求するべきです。文化庁の役人は、「個々のミュージアムの自助努力で健全経営に到達」という実現不可能な青写真を描いているようですが、皆さんは文化庁に対して、「そんなの絶対に不可能ですよ」と抗議する必要性があると確信しています。(2026年3月22日15時21分脱稿)

